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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

幼小一貫教育のあり方が、今後問われてくるはずです

第622号 2018年4月27日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 我が国は新しい教育方針において、保育園・幼稚園・こども園は小学校とのつながりを考えた保育・教育を実践するように要請しています。この方針に沿って、幼児教育施設では、さまざまな取り組みが始まっています。幼稚園の生き残りをかけ、他園と差別化するために、小学校の教育を先取りした学習を行う園も出てきました。幼児の発達にとって好ましくない動きも見られます。幼児教育の重要性が叫ばれながらも、実践の蓄積がない日本の幼児教育は何をやったらよいのか分からず、右往左往しているのが現状です。

中高一貫や小中一貫が実践され、それが当たり前になっている現在、いまだに幼小一貫の実践は成果を挙げていません。小学校の先生が幼稚園を見学に行ったり、幼児が小学校に行って遊んだりするような、形ばかりの「幼小連携」は見られますが、子どもたちの成長にとって意味のある連続した学習活動はまだまだ少ないようです。お互いが毎日の指導に忙しく、顔を合わせて議論する時間も取れないような現状ですから、ひとつのテーマをめぐって共同で教育内容を確立していくということは至難の業のようにも思えます。しかし、学力の基礎をつくる幼小期の教育が今のままでよいはずはありません。

昨年4月から、大阪市特別参与を拝命し、「大阪市保育・幼児教育センター」の活動に関わってきました。幼児教育の無償化を国に先駆けて実施した大阪市は、教育の質を上げなければ無償化の意味がないと考え、新しいカリキュラムの作成に取り組んでいます。多くの課題がある中で、今年は小学校との連携を強く前面に押し出し、現場の先生方の交流が始まっています。4月23日に行われた「第1回 保幼こ小連携・接続研究会」に参加し、「保幼こ小接続研究に期待するもの」と題して、20分ほどお話しさせていただきました。幼稚園・保育園・こども園の園長先生や、小学校の校長先生が集まり、これから2~3年かけて、幼小接続の教育を具体的に考えていこうとする研究会です。日本の幼児教育改革に関し、これほどまでに熱心に取り組んでいる自治体はないのではないかと思います。この席で私が参加者の皆さまに訴えたことは、まず「相互に現状を理解しあう」ということです。幼児教育に取り組んでいる現場の先生方には、ぜひ現在の小学校で何が問題になっているかを具体的に知っていただきたい。そしてまた小学校の先生方には、幼児教育の現場でどんな活動が行われているのか、またどんな問題が起こっているのかを知っていただきたいということです。

幼児教育の現場にいる先生方が、子どもたちが進級していく小学校で、学力のみならず、集団生活面においても、どんな問題が起こっているのかを知る必要があるし、就学前の学習や活動が小学校の学習にどうつながっているのかを知らなければ、適切な指導はできません。また、学校の先生方には、小学校で起こるさまざまな問題の原因は幼児期にあるのではないか、それが一体どんなものかを知っておいていただきたいということです。小学校入学後から始まる教科学習や集団活動の基礎が幼児期につくられるのは当然です。成長していく子どもの姿をまず知り、その過程でぶつかる問題が何であるかを明らかにしていくことで、幼小接続の課題が見えてくるはずです。

私自身は、「知・徳・体」の3つの課題のうち、特に「知」の部分に関し、実践を通して研究を積み重ねてきました。幼児期の教育課題を考えるために、小学生の指導の現場にも立ち、小学校の学習において、「どこでつまづくか」を実践を通して理解してきました。その経験を踏まえて幼児期の指導内容を考えてきましたが、幼児教育の現場にいる先生方には、ぜひ小学校の現場で何が起こっているのかを知っておいてほしいと思います。子どもたちの「今」を充実させるためには、子どもたちが「将来」どんな問題にぶつかるかを事前に知っておき、日々の活動内容を考える必要があります。私がKUNOメソッドを確立する際に一番参考にした、遠山啓氏の「原教科」の考え方をもう一度思い出してみる必要があります。

室長のコラム615号で、幼児の数的感覚が衰えているのではないかと書きました。その後小学校の先生にお聞きしても、やはり現在小学校低学年の算数の学力が劣ってきているようです。ものごとに触れ、働きかける体験が少なくなり、指1本の操作で疑似体験をするような環境にいる子が多い現在、学力の基になる「原体験」がないままに教科学習に入り込めば、いろいろな問題が起こってくるのは当然です。小学校で起こる問題の多くは、幼児期の体験や学習に原因があると考え、「幼小一貫」の内容を考える必要があります。一方で、幼児期の活動や学習を継続させるためにも、小学校低学年の学習内容・学習方法を変えていく必要があります。上からの改革だけでなく、下からの改革も同時に行わなければ、本当の意味で「幼小一貫」は実現できません。その意味で、幼児教育の現場にいる保育者と、小学校の現場にいる教師が共通なテーマで話し合うことの意味は大変大きいと思います。

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