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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

数の感覚が衰えているのでは・・・

第615号 2018年3月9日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 最近授業をしていてよく感じるのは、子どもたちの数の感覚が衰えてきているのではないかということです。最近行った「数の構成」では、暗算で答えが出せない子が多く見られました。これまで具体物やおはじきなどを使った操作で何度も学習してきているので、最後のまとめとしてやったのですが、どうも反応がよくありません。暗算といってもいろいろなやり方がありますが、要するに具体物や指を使わずに話を聞いただけで数をイメージし、答えを導き出すことができるかどうかを問うものです。もちろん小学生ではありませんから、たし算やひき算を暗算で行うわけではありません。すでに20年以上にわたり、数の内面化の重要性を訴え、毎年行っている課題ですが、なぜかここ最近子どもたちの出来具合があまりよくないことを感じています。

暗算能力を高める学習はいろいろありますが、幼児期の課題としては次のような内容を系統的に行っています。
  1. 数の構成
    5~10までの数がいくつといくつでできているかを考える
  2. 数の多少
    2つの数を比べてその違いをすばやく探す
  3. 数の増減
    お話によって生活のある場面を伝え、その中での数の変化を頭で考えさせる。計算の世界に導く前に、生活の実態に合わせて数の変化を考えさせる
  4. 一対多対応
    かけ算の基礎としての一対多対応の課題を具体物やペーパーで学習した後、小さい数の範囲では暗算で答えが出せるようにする
ただし、どの課題も最初から暗算させるわけではありません。
  1. ごっこ遊びなどを通して、生活における数の体験を再現する
  2. 具体物やおはじきを操作して答えを導き出す
  3. お話だけを聞いて答えを出す。その際、指を使わせない
こうした課題の積み上げで、最終的には暗算で答えが出せるようになることを目標としていますが、最初から暗算させるのではなく、具体物やおはじきをつかった操作で答えを導き出す練習を相当行います。その経験が内面化し、数をイメージすることができれば、暗算能力は高まっていきます。ここで一番大事なことは、分からなくても指を使って考えさせることはしないということです。指は具体物に代わるもので身についていますから、指を使って答えを出すと、そこから抜け出すのに時間がかかり、暗算能力を高める方法としては適切ではありません。どんな方法でもよいから答えが出せることに意味をおくのではなく、頭でイメージして答えを導き出すことが将来の学習にとって大事です。この暗算能力が幼児期に身についていると、以降に学ぶ計算が正確で早くできるようになりますが、指を使って幼児期の課題をこなしてきた子は、小学校に入ってから行う計算問題になっても指を使わないと答えが出せない状況が続きます。

小学校の入学試験でもよく出される数の問題を、手の指が足りなかったら足の指も使ってやりなさいというように、目の前の問題の答えをどんな方法でもいいから早く出すように言われ訓練してきた子どもがたくさんいます。しかしそうした方法では、小学校に入ってから計算にとても時間がかかってしまいます。現に、いま私が担当している就学準備クラスに通われている外部生の中には、指を使わないと答えが出せない子どもが大勢見受けられます。このように、正しい指導を受けられなかった子どもたちは、間違った受験対策で成長を阻害されているといっても過言ではありません。結果を早く出すことに執着するあまり、方法は何でもありの教育では、将来につながる学習の基礎を身につけることはできません。

最近の子どもたちの暗算能力がなぜ低いのか、いろいろ考えてみました。考えられることのひとつは、生活や遊びの中に数の原体験をする機会が少なくなってきているのではないかということです。昔はよくごっこ遊びやゲームの中で、必要に応じてやっていた「数の自己教育」が十分できていないのではないかと思います。遊びの中で、ものを数えたり、比べたり、配ったり、分けたりする機会がひょっとして少なくなっているのではないかと思い、授業で子どもたちに、普段幼稚園や保育園でどんな遊びを好んで行っているか聞いてみました。すると予想したとおり、遊びの種類が変化し、昔はよく行われていた「ままごとあそび」や「お店屋さんごっこ」のような遊びが少なくなっているようです。家でも精巧なおもちゃやコンピューターゲーム、タブレットといったものに興味を示し、数の感覚を育てる事物体験が少なくなっているのではないかと感じました。また、小学校受験向けに早くからペーパーに取り組ませ、具体物に働きかける経験が希薄になっているのではないか・・・とも思います。

数概念は、教え込んで身につくものではありません。生活や遊びの中で、数の基礎体験を積み、数の感覚を育てているはずです。必要に応じて行っている「数の自己教育」機能が、遊びの変化に伴い、衰えているのではないかと思います。私はこれまで「伝統的な遊び保育だけではいけない」と主張してきましたが、遊び保育が意味がないと言ってきたわけではありません。今回のような子どもの現実に向き合うと、もっともっと徹底して将来の学習に役立つ遊びを、普段の園生活の中でやってほしいと思います。遊びの変化が、認識能力に与える影響は大いにありうるのではないか・・・そんな想いを持ちながら、子どもたちの成長を見守っていきたいと思います。

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