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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

高齢者のためのKUNOメソッド

第614号 2018年3月2日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 高齢者の認知症予防対策のひとつとして、KUNOメソッドを活用した学習をしようという計画があり、2月22日(木)に豊橋にある病院併設のデイケア・デイサービス施設に赴き、60名程の高齢者を対象とした学習体験を行ってきました。だいぶ以前から、KUNOメソッドの内容と方法は高齢者のための学習に適している・・・というご指摘を多くの皆さまからいただいており、私自身も高齢者の認知症対策に有効に使っていただければ・・・と長い間思ってきましたが、実践する場もなく今日に至っていました。「ひとりでとっくん365日」をタブレット用にアプリ化 したときから、試験的にそれを現場で使っていただき、その様子の報告を受けながら、実物を使った学習や、また場合によってはペーパー学習も可能なのではないかという現場サイドの要請に応え、今回の体験授業が実現しました。

10名程度の男性・女性高齢者を対象とした「ひみつ袋」の授業と、60名程のデイサービスを利用されている高齢者を対象としたペーパー学習を行いました。ひみつ袋は30分ほど、ペーパー学習は50分ほどかけて行いましたが、どの皆さまも楽しそうに集中され、私自身も高齢者を対象とした授業は初めての経験でしたから、たくさんのことを学ばせていただきました。私は認知症予防に関する専門家ではありませんので、専門の医師の指示のもとで、楽しく授業を行ってきました。お年寄りには、「できた」という達成感と、「楽しかった」という笑顔が一番大事なようです。幼児期の教育と違って、積み上げて理解を深めるというよりも、今この瞬間に知的な興奮を覚え、楽しく集中することで脳を刺激し、それが何より大事だということのようです。

6名1グループで机を囲み、そこに1~2名の介護スタッフの方が付き添い、マイクを使って問いかける私の指示を分かりやすく解説していただきながら、1問1問解いていかれました。もちろん人生経験豊かな方々ですから、幼児とは違った理解度を示されました。幼児にとって難しい課題が易しかったり、逆に幼児にとって簡単な問題が難しかったりと・・・たくさんのことが分かりました。まだまだ衰えていない認識能力・衰え始めている認識能力・・・そうしたことをしっかり調査し、それを前提にした上で内容を考える必要があるし、何よりも「できた - できない」は幼児以上に敏感になる場合がありますので、問題の難易度や系統性をしっかり把握した上で、教材を開発しないといけないと感じました。

9~10人グループで行ったひみつ袋の体験授業は、
  1. 袋の中に入っている具体物の触った感じを言葉で説明する
  2. 袋の中に入っている変形つみ木を指示したとおりに取り出す
  3. 袋の中に入っている形を紙に描き表す
の3つの課題を行いました。初めての経験ということで、興味を持って楽しく参加していただきましたが、1と3の出来具合は、予想に反し幼児とは逆転現象が見られました。
また、集団でのペーパー学習では、予想通り空間認識に関わる「四方からの観察」が大変難しかったようです。これは幼児と同じです。

四方からの観察
テーブルの上のものを4人の子どもが見ています。
  1. 赤い洋服の子からはどのように見えるでしょうか。下から選んでをつけてください。
  2. 黄色い洋服の子からはどのように見えるでしょうか。下から選んでをつけてください。

また、ペーパーに描かれたお手本を見て行う三角パズルは、予想以上に苦戦されていましたが、その挑戦がかえって楽しいと感じられたようで、最後に完成したものをわざわざ写真に収めていた方もいらっしゃいました。

三角パズルの変化
  1. 三角パズル4枚で、左上の真四角の形を作ってください。その形からはじめて1枚ずつパズルを動かして、次の形を作ってください。

最後にお書きいただいたアンケートを拝見しても、「楽しかった」「今後もぜひやってみたい」という感想を持たれ方が70パーセント以上いらっしゃいましたし、自由に書いていただいた感想の中には、
  1. ボケないために必要だと思います
  2. 久しぶりに勉強できた
  3. これからもやりたい
  4. 初めてのことで、わくわくしました。楽しかったです。
  5. 難しいところもあったけど、楽しかった
  6. 問題をもう少し多くいただきたい気がします
〈原文のまま記載しています〉
といったような前向きの意見がたくさんあり、強制でさせられているといったご感想はありませんでした。

幼児教育の現場に45年間立ち、幼児の認識能力がどのように育っていくか、また何が大事かを見てきた私が、『リハビリテーションのためのKUNOメソッド』として初めて高齢者の授業を担当し、そこで見えてきた高齢者の取り組みを、これからの教材開発に生かしていきたいと思います。短い時間ではありましたが、何よりも楽しく・意欲的に関わっていただけたことが、今回の体験授業の一番の成果だったと思います。

物事を理解していくために必要なことは、幼児であっても高齢者であっても同じです。特に今回は、三角パズルに大変興味を持たれ、楽しみながら取り組んでいただけたということは、やはり事物に触れ、それを操作し、考えるという「事物教育」は何より効果があるということだと思います。タブレットの学習は、その機能性を生かしながら取り組む効果はあるはずですが、最終的にはやはり幼児と同じように「事物に働きかける」経験が、脳への一番の刺激になるということが改めて分かりました。この経験を今後どう生かしていくか、当面は体験授業を通して、実態を把握することに集中しなければいけないと思いました。

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