ページ内を移動するためのリンクです
MENU
ここから本文です
週刊こぐま通信
「室長のコラム」

どこで得点差が出るのか

第594号 2017年9月29日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 9月10日に行った「聖心模試」では、最新の傾向に合わせてペーパー問題10枚の内容を大きく見直しました。先日その結果分析をしましたが、驚くほど予想したとおりになりました。最近のセミナーでいつもお話ししているとおり、「1回の指示を正確に聞き取り、問題の意図に沿って作業し答えを導き出す」問題の正解率が極端に低かったのです。これが、ペーパーだけを機械的にトレーニングしてくる子どもたちの学力の現状です。物事に働きかける経験を持たない子の典型的な結果といえます。アクティブ・ラーニングが盛んに言われている時代です。受け入れる学校側がそのことをまったく無視して、昔のような訓練によってできてしまう問題を出すはずがありません。それなのに、毎日何十枚とペーパーをこなすことが受験対策だという時代遅れの方法で対策をとっている限り、こうした流れに対応できるはずはありません。そのことは別の角度から見れば、「事物を使った基礎教育をきちんとしなさい」という学校側のメッセージだと受け止めるべきです。これはどこの学校でも同じことです。

今年受験される皆さまの直前対策の参考にしていただくために、10問の問題分析をここに掲載します。テストを受験された方にはすでにお伝えしましたが、他校を受験される方もぜひ参考にしてください。今からでも遅くありません。量で勝負するのではなく、質が問題です。1枚のペーパーを大事にし、いろいろな角度から問いかけていく方法で最後のまとめをしてください。

9月10日実施 「聖心模試」ペーパー問題結果分析

総括

 今回は、最近の入試傾向を踏まえ、難易度も従来よりは高く設定して出題しました。その結果、全体の平均点は39.5点(60点満点)で、予想した正解率70%よりやや低めでした。最近の入試問題を見ると、正解率70%~80%が合格の一つの目安になると思います。その意味で今回の問題は、入試レベルの難易度だと思います。

全体的に平均点が低かったのは、予想したとおり「指示を聞き取り、作業して答えを導き出す」課題です。こうした問題は最近の入試の傾向と言えますが、得点の分かれ目であるため、聖心女子学院初等科でも必ず1~2問出されています。知識の量を問う「常識問題」とは違って、思考力が求められます。こうした課題は、直前まで練習を続けてください。

各問題の分析

1. 未測量 : 交換(一対多対応)
 リンゴ1個とミカン2個が同じ値段だという約束を踏まえ、2つを比べてどちらが高いかを判断したり、同じ値段の組み合わせを探したりする課題です。比較する際に、2個のミカンを1個のリンゴに置き換えるか、1個のリンゴを2個のミカンに置き換えるかしなければなりません。この置き換えの作業は、シーソーのつり合いでも学んでいることです。今回の場合は、ミカン個分と考えた方が分かりやすいと思いますが、2者を比較する場合は、両方から同じものを消してしまう方法でも構いません。この時期になればいろいろな解き方が可能になりますので、子ども自身が考えた方法をしっかり受け止めてあげてください。
2. 位置表象 : 飛び石移動
 飛び石を使った位置の移動の問題です。それぞれの動物の動き方をしっかり理解し、作業しなければなりません。どこで出会うか、どこで追いつくかといった小学校の旅人算につながる内容ですが、幼児の場合は約束を守って作業して解かなければなりません。この作業能力がないと、この問題を正解することは難しいはずです。特に1つ飛ばし、2つ飛ばしの意味をしっかり理解して作業できるかどうか、よく見ておいてください。間違いのほとんどが動かし方の間違いに起因していることが、授業中の子どもの様子を見ているとよく分かります。
3. 図形 : 方眼を使った図形構成
 方眼を使った図形構成ですが、中身は「単位の考え方」の広さくらべに当たる内容です。あるものを1単位として考えた場合、「真四角3つ分の広さ」と考えるか「三角6つ分の広さ」と考えるかどちらでも構いませんが、何かを基準にしてそれを「1」とする場合、いくつ分塗ればよいかを考えて作業しなければなりません。真四角1つを1単位とするならば、三角2つで真四角1つ分になるという関係を理解しているかがポイントです。
また、考え方だけでなく、自分で描き表すことに慣れていない子にとっては厄介な問題だと思いますが、選択肢から選ぶ問題ばかりをやっていると、こういう時に困ります。作業能力が求められる典型的な問題ですから、こうした問題をたくさん練習してください。
4. 言語 : 言葉づくり
 聖心の入試では、「しりとり」に代表される、「一音一文字」の理解に関する問題がよく出されます。今回は「はじめの音」と「まん中の音」を使ってできる言葉を探す問題と、「メダカ」をつくるためにどの言葉を使うかを問いかける問題です。この質問の仕方の違いにも慣れてください。一音一文字に関するものは、今年も出される可能性が高い問題の一つです。
5. その他 : ジャンケンの推理
 子どもたちが日常的に経験しているジャンケンを使って、たくさんの課題が入試問題として出されています。1問目のように、ジャンケンの勝ち負けを考える問題だけでなく、2問目のような、ジャンケンを使った位置移動、またこの他にもジャンケンを使った数のやり取りの問題もあります。特に今回の階段移動のような場合は、結果が表であらわされることが多く、この表の読み取りができるかどうかもポイントになります。今回は、勝ち方によって進む数が違っていますので、その約束もしっかり理解して作業しなければなりません。作業能力が求められる典型的な問題の一つです。
6. 数 : 数のやり取り
 「数のやり取り」には、2つのパターンがあります。その一つは、同じ数からスタートして、やり取りすると違いはいくつになるかを考える問題です。もう一つは、違う数を同数にするために、誰から誰に何個あげればよいかを考える問題です。1問目は前者のパターンです。2問目は後者のパターンですが、「太郎君は5個、花子さんは1個アメを持っています。太郎君が花子さんにアメを3個あげました。すると花子さんが多くなりました。花子さんはいくつアメを返すと2人の数は同じになりますか?」という問題ですので、あげたアメをまた返すという行為がイメージできないとかなり難しくなります。数の変化に敏感かどうかが問われる、作業能力が絡んだ問題の一つです。
7・8. 言語 : 話の内容理解
 聖心は、聞く力をとても大事にしている学校です。ですから、従来から「話の内容理解」の問題は数多く出されています。記憶していればできる問題もあれば、物語の内容をしっかり理解していないとできない問題もあり、時には話を聞いて道徳的な問題を問いかけられる場合もあります。また、最近は「地図上の移動」や「数の変化」に関する問題も多く出されています。暗算能力が必要なのは、話の内容理解の中に数の問題が多く出されているからです。平均点を見るとやはり、地図上の移動が絡む「7」の問題の方が難しかったようです。「8」の「このお話のうれしい気持ちはどんな時の気持ちでしょうか?」というような、社会性に関する問題も数多く出されるのがこの学校の特徴です。
9. 生活 他 : 理科的常識
 昨年度入試でペーパー問題が増えた理由の一つは、常識問題が増えたからです。今後も必ず難問が出されるはずです。ここで点を落とすとかなり厳しい状況になりますので、直前まで練習を続けてください。今回は野菜が育つ場所と種の大きさに関する問題で、こうした問題はこれまでもよく出されています。今回のテストの中では一番平均点が高かった問題です。
10. 生活 他 : 鏡映像
 これも理科的常識問題の一つです。つみ木や太郎君が、鏡にどのように映るかという問題で、鏡映像としてはきわめて基本的ですが、平均点が低いのは、鏡映像と、右手・左手を含めた、四方からの観察とを混同しているからではないかと思います。
つみ木の問題では、鏡の前に置かれている状況が絵に描かれていますが、太郎君の問題では、鏡の前に立っている絵が描かれていないため、難しいかもしれません。「太郎君は、右手をあげて、左足をあげて、鏡に映っています。」というところを具体的にイメージできればよいのですが、それが難しかったのかも知れません。つみ木の問題も含め、四方からの観察と鏡映像をしっかり区別できているかどうか、もう一度確認してください。

以上、問題作成を担当した私が分析したものを掲載しました。参考になりましたでしょうか。他校を受験される方も、これからでも遅くはありませんので、ぜひこの子どもたちの学力の現状を踏まえて、「指示の聞き取り」と「作業能力を高める」学習を続けてください。

PAGE TOP