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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

違う分野での実証研究がはじまりました

第584号 2017年7月14日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 幼児期の基礎教育のプログラムとして開発してきた「KUNOメソッド」が、幼児教育以外の分野でどう活用できるか・・・その実証研究が始まりました。

私が現場での指導を踏まえて、メソッドを構築する際に拠りどころとした「遠山理論」は、1972年に発行された「歩きはじめの算数」(遠山啓 編、国土社)の中で、次のように総括されています。

......教育がしだいに下降していって、もっとも根源的なものに到達し、ここを出発点として、両び〔原文ママ〕上昇することができたら、これまで教育不可能とされてきた障害児も教科教育が可能となるだろう。
 そのためには、いうまでもないことだが、従来の教科に対する固定観念を打ち破って、根源的なものに深く下降していく必要がある。たとえばこれまでのべたいくつかの指導法は、従来の数学という教科では行われたことのないものばかりである。このような分野を私は「原数学」(Ur-Mathematik)とよぶことにしている。
 これを他教科にまで拡張すれば「原言語」「原音楽」「原造型」・・・・・・ともいうべき分野が新しく開拓される必要があろう。そしてそれらを総称すれば「原教科」という分野が設定できよう。これは人間の精神活動の萌芽形態を探究するためのもっとも興味深い分野となるだろう。」(p.20)

遠山氏は別のところで、この「原教科」は知的障がい者だけでなく、一般の幼児教育にも役立つのではないかと述べています。

KUNOメソッドの指導理念の一つである「教科前基礎教育」は、遠山氏のこうした考え方に基づいています。八王子の養護学校で、知的に障がいを持つ子どもたちに、算数をどのように教えたらよいのかを考え、6年間かけて実践したその記録の総括文の中に、幼児期の基礎教育の考え方が述べられています。私はそれを信じて45年間現場での指導に当たってきました。そこで完成したカリキュラムとオリジナル教具・教材は、受験のあるなしに関係なく幼児期の基礎教育に必要であると、皆さまから高い評価をいただいています。特に、現場で開発した教具・教材は、日本のみならず、海外の方からも評価していただき、使っていただいております。

この「KUNOメソッド」に対し、最近私たちが対象とする幼児期の子どもたちだけでなく、違う分野の教育活動に使用したいという依頼があり、それが可能かどうかの検証が始まりました。それは、

  1. 高齢者の認知症対策として、このメソッドが有効ではないか。特に今年2月から販売を開始したアプリ「ひとりでがんばりマスター!」を使ったトレーニングが、高齢者にも可能なのではないか。
  2. 知的障がいを持つ子どもたちの教育に、KUNOメソッドは有効ではないか。特に小学校低学年の子どもたちに、この教育内容および教具教材は使えるのではないか。

いずれも、大学の研究者が現場で実証し、科学的根拠を踏まえて実践に生かしたいということで、研究がスタートしました。これまでも、KUNOメソッドで開発した教具・教材は、高齢者や知的障がい者の教育に活用できるのではないかとひそかに思っていましたが、専門家の方々が実際に検証し、それから使用を開始しようという姿勢は、まさに私が45年間の実践の現場でつくり上げ、検証してきたことと同じ方法であり、大変期待しています。

先ほどの引用文の最後、「・・・そしてそれらを総称すれば「原教科」という分野が設定できよう。これは人間の精神活動の萌芽形態を探求するための、もっとも興味深い分野となるだろう。」という言葉は、どんな状況下においても普遍的で、「人間の精神活動の萌芽形態」は、幼児教育だけの問題ではないということだと思います。

知的障がい者のための実践記録を総括した遠山氏の考え方に沿って開発してきた「KUNOメソッド」のカリキュラムや教具・教材が、高齢者や知的障がい者のために活用されていくとしたら、私を含めた現場のスタッフたちにとって、これほどやりがいのある仕事はありません。「本物」は、こうして他の分野にまで波及していく力を持っているということを、専門家の方々とお話しさせていただき、確信しました。これからまた違う分野での教育活動が始まることに、大きな期待を寄せています。

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