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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

KUNOメソッドへの期待

第569号 2017年3月17日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 2007年に上海に提携教室をつくってから、今年で10年目を迎えます。この間、中国のみならず、韓国・ベトナム・インド・タイで提携教室を開き、今年秋からはシンガポールでも始まります。また日本では、東京のサピックス、広島の大木スクールなどにメソッドを提供し、この4月からは、京都のプロシップと提携し、教室指導が始まります(敬称略)。国内のみならず、海外からもたくさんの声掛けをしていただいているのは、全国210カ所の書店でこぐま会の教具・教材を取り扱っていただいており、そこで「こぐま会の教育」が、多くの皆さまの目に触れているからだと思います。幼児教育の考え方に賛同され、その教育法を高く評価していただいている結果にほかなりません。東京のこぐま会は小学校受験にも取り組み、合格に向けた特別な対策も取っていますが、週1回の日常授業は「KUNOメソッド」に基づく指導を行っており、そのクラスの授業内容を高く評価していただいています。この秋から教室を開校するシンガポールの方は、次のように話してくださいました。

「シンガポールの幼児教育は、日本のように自由保育を良しとする考え方と、徹底して知識の教え込みに走る早期教育しかありません。「考える力」を育てるプログラムがなく、みんなが世界各国のメソッドを探しています。そうした要求にこぐま会のKUNOメソッドは応え得ると判断していますので、ぜひ教育熱心な人が多いシンガポールにメソッドを提供していただきたい」

シンガポールの教育熱が高いのは、小学校を卒業する時にPSLEという試験があり、ここで普通の中学へ進んで大学進学の道を進むのか、それとも技術系の学校へ行くのかが決定するからです。そのためこのPSLEでよい点数を取るためにみんな必死になって勉強します。だからこそ、幼児期からきちんとした教育を受けさせたいと願う保護者が多いのです。そうした人たちの要求に、KUNOメソッドは応え得ると判断されたのだと思います。

日本国内において、小学校受験だけを目指す幼児教室は、ペーパーだけの学習に終始し、しかも指導に系統性も何もなく、過去問だけを教え込んでいるのが現実です。指導理念もなく、カリキュラムさえもない指導が、小学校受験のない他国に波及するはずはありません。KUNOメソッドが高い評価をいただいているのは、「教科前基礎教育」「事物教育」「対話教育」の指導理念が受け入れられているからにほかなりません。こぐま会の教育は、日本においては特別な「受験教育」と色眼鏡で見られていますが、海外からは、幼児期の基礎教育の中身として評価されているのです。メソッドを開発した私自身も、クラスで使うカリキュラムは、受験があるなしに関係なく、幼児期の基礎教育にはなくてはならないものだと考えています。その上で、それぞれの学校の出題傾向に沿って受験対策を行っているのです。幸い、最近の入試では、私が20年かけてつくりあげた「ひとりでとっくん」100冊の単元別問題の中から入試問題がつくられており、知能テストをベースに問題がつくられていた40年前とは、まったく様子が異なります。基礎教育をきちんと行えば受験にも対応できると確信しているのは、そうした変化が実際の入試で起こっているからにほかなりません。小学校入試には教科書がありません。その教科書的役割をこぐま会の問題集が担っているのは、学校側も基礎教育をきちんとやってきてほしいと考えているからなのです。

3年ほど前から中学受験で有名なサピックスと提携し、非受験の幼児教室を代々木駅前に「サピックスキッズ」として開校しました。非受験で教室運営が成り立つのかどうか最初は心配していましたが、現在多くの子どもたちに通っていただいています。そのサピックスキッズ主催で、毎年2回ほど教育講演会を実施していますが、3月12日(日)には「『算数脳』の育て方 ~図形と幼児教育~」というテーマで、第7回目の講演会を行いました。代々木にある立派な代ゼミタワーの大教室を使い、親子での体験授業(40組)と保護者向けのセミナーをセットにしたイベントですが、定員を大きく上回るお申し込みをいただいて盛況でした。毎回、講演会終了後に参加者から質問を受けますが、「受験はしないけれど、幼児教育の大切さを感じているのでぜひ通わせたい」という保護者が大勢いらっしゃることを知りました。ジェームズ・ヘックマン氏が、著作の中で「5歳までの教育が人間の一生を左右する」と主張したことがきっかけで、いま世界中である種の幼児教育ブームが起こっていますが、日本もその例外ではない・・・ということを痛感しました。受験指導の現場に45年もいた人間からすると、受験に関係なく幼児教育の大切さを感じている若い保護者が増えているのは、大変喜ばしいことだと思います。

この10年間KUNOメソッドを世に問い、その結果いろいろなところから声掛けをしていただき、その都度日本国内のみならず、海外にも出かけて講演会や体験授業を行ってきました。現地の人々との交流で、東京にいては分からない、その地域の多くの方々の教育要求にも触れ、私自身も大変勉強になっています。真似されるリスクを負いながらも、それでも多くの子どもたちに「考える力」を身につけていただきたいという想いからメソッドの公開に踏み切りました。企業秘密と言えばその通りですが、教育という営みは共有の財産ですから、これからも未来を背負う子どもたちのために質の高い授業を実践し、公開していきたいと思っています。今まで、どちらかと言えば心理学の成果を多く取り入れてきた幼児教育ですが、これからは「脳科学」の成果も取り入れたカリキュラムの開発に力を注いでいかなければならないと考えています。

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