ページ内を移動するためのリンクです
MENU
ここから本文です
週刊こぐま通信
「室長のコラム」

型を教え込む行動観察対策を学校側は受け入れない

第555号 2016年11月18日(金)
こぐま会代表  久野 泰可

 今年の私立小学校の入試も、ほぼ一段落しました。12月18日に予定している「入試結果報告会」において入試の様子を詳しくお伝えするために、聞き取った資料の整理と分析を急いでいます。今年は大きく変わった点がいくつかありますので、それをきちんと分析し、来年以降の入試に備えたいと思います。今年は、いつも以上に「行動観察」の重みを痛感しています。学力がありながら合格できなかった子どもたちには、一体何が足りなかったのか・・・毎年繰り返す総括の中で、分かってきたことがあります。そのひとつに、「3.11東日本大震災」以降、学校の考え方も大きく変わったのではないかということです。それは、2012年度入試以降とそれ以前の入試における行動観察の内容に、変化が見られるからです。それまで、自由遊びや指示行動が中心だった行動観察が、より深く人とのかかわりを重視し始めたのは、「絆」に象徴される世の中全体の動きと無関係ではありません。また、ジェームズ・ヘックマン氏が主張する「非認知能力」の重要性の影響もあるように思います。

学力だけで合否は決まらない・・・と何年も言い続けてきました。もっと正確に言えば、「学力だけを高めても、そのことだけで合格はできない」ということです。それは、最後の公開テストの結果と実際の合否を突き合わせてみると、一目瞭然です。1点でも多くペーパーテストで得点するために、毎日毎日勉強で子どもを追い込んできた結果、失ったものの大きさに気づくのは、残念ながら合否の結果が出た後でしかないのです。学力が大事なことは当然です。しかしそれだけで合格できない小学校入試の現状をあまりにも知らない保護者が多くいらっしゃいます。その結果、行動観察さえも1点でも多く得点できるようにと、「型」を教え込むことを歓迎するのです。しかし、そうしたやり方は子どもの成長によくないと学校側はきっぱりと拒否しています。お金をかけて「型」を身につけるトレーニングが、実は学校側が求めているものと正反対なものであるということに、早く気づいていただきたいと思います。子どもたちの生きる力は、教え込まれたものではなく、自ら獲得して身につけたものです。複数校合格した子どもの多くが、決してリーダーシップをとれるような子ではありません。人の話をしっかり聞き、決められた役割を着実にこなし、自分の考えをしっかり持って自ら行動できるような子どもたちです。不安を感じさせない、自信に満ちた行動の一つ一つに、それまでの「育ち」が凝縮しているのです。ある学校の先生が、以前こんなことを書いていました。

「小学校受験は、子育ての総決算として受け止めてください」

今あらためて、この言葉の重みを考えてみるべきです。他人任せの受験対策では、どうしても教え込みにならざるを得ないのです。それは、学習面だけでなく行動面においてもそうです。しかし、普段の家庭生活の中で培われたものこそ本物です。教え込まれた「型」はすぐに見破られ、拒否されるのです。どんなに演技しても長続きはしないからです。温かい家庭環境の中で育てられた「その子らしさ」を学校側は求めているのです。

11月13日(日)の午前中、第6回「合格のための室長教育講演会」を行いました。今回のテーマは、「行動観察が重視される背景とその対策」です。以下のような内容で行いました。

「行動観察が重視される背景とその対策」
1. なぜ行動観察が重視されているのか - 時代背景と学校の思惑
大学入試改革が何故必要か
アクティブ・ラーニングが何故重視されるのか
教えない授業
2. 実際の入試で、行動観察はどのように行われているか
10年間の入試問題一覧
その中で代表的な学校の今年の入試問題の実際
3. 行動観察で何を評価しようとしているのか
相談する
自己主張する
相手の言うことを聞く
仲間意識
参加する喜び
積極的にかかわる役割の意識
想いやる
助け合う
譲り合う
発表する
4. 家庭での対策 - その子らしさを失わないために
慶應義塾横浜初等部開校当時のメッセージ
教え込みの訓練は意味がない
本当に身につくとは(家庭の力)

今年の入試問題も若干紹介しながら、行動観察が重視される社会的背景も含め、学校側が何を求めているのかをお伝えしました。そして、その対策のために、家庭の力がどれだけ大事かということもお伝えしました。点数で評価することに慣れてしまった我々大人たちに、違う視点での評価があるという発想の大転換が求められています。

PAGE TOP