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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

基礎教育の充実をめざして

第53号 2006/04/13(Thu)
こぐま会代表  久野 泰可

 こぐま会は、4月11日に創立23周年を迎えました。幼児教育についての関心が高まっている昨今、私たちが果たすべき責任の重さを痛感し、新たな決意で幼児期における基礎教育の充実をめざしていきたいと思います。

 幼児期における基礎教育のあり方については、昔からその重要性が叫ばれ、さまざまな試みがなされてきました。また最近では、学力低下懸念を受け、幼稚園や保育園で意図的な学習活動を取り入れるようになってきています。女性の社会進出に伴い、子育てをしながら働き続けるお母さんが増え、保育園に対しても、ただ安全に預かってもらうだけでなく、幼児期にふさわしい教育機関としての役割を求めはじめているのではないかと思います。そうした教育要求が日本の幼児教育のあり方を変えていく原動力になるのではないかと期待しています。

 しかし、意図的な知育を敬遠してきた日本の幼稚園や保育園には、残念ながら、適切な基礎教育プログラムの蓄積がありません。文科省の役人も幼稚園経営者も、実際のところ何をどう指導したらいいのかがわからないのが現状でしょう。だからこそ、就学年齢の1年引き下げや、幼稚園義務化論議が起こっても、制度上の問題、行政上の問題だけが議論され、何をどう教えるのかといった、教育内容の論議が深まらないのです。

 私たちが20年以上にわたり、理念として掲げ、実際の教室で実践してきた「教科前基礎教育」の内容と方法こそが、これからの幼児教育に必要な考え方だと確信しています。だからこそこの1年の間、幼児教育熱の高まってきた関西方面の教育関係者をはじめ、韓国や中国からも、このメソッドを教育現場に取り入れたいという問い合わせが相次ぎました。韓国では、すでに「KUNO メソッド」としていくつかの幼稚園で実践され始めています。

 この教科前基礎教育という考え方は、遠山啓氏から学んだものです。数学者としての彼は、八王子の養護学校での実践記録、『歩き始めの算数』のまえがきで次のように述べています。「・・・従来の教科教育、特に算数教育が始まる前に、その準備として、このような学習が必要であると考えたのである。そういう性格をもったものを私たちは『原数学』とよんでいる。したがって、ここで実践されているさまざまな内容や方法は、一般の幼児教育にも役立つものでないかと、ひそかに期待しているのである・・・」

 1972年に出版されたこの一冊の本との出会いが、私の教育活動を方向づけてくれました。遠山氏の幼児教育への想いを、わが想いとし、幼児期の子どもたちの基礎教育の充実に向け、体力の続く限り、一保育者としてがんばり続けたいと思います。

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