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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

受験を終えた子どもたちの、その後の学習

第517号 2016/2/5(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 昨年秋に受験し、この春から小学校に入学する年長児の「就学準備クラス」の授業が1月から始まっています。「幼小一貫教育」の理念を掲げている私たちにとって、小学校の教科学習への橋渡しをするこの「就学準備クラス」が、これまでの授業の成果を見る意味で、とても大事な授業です。受験向けに培った学力を、どのように教科学習に繋げるか。ここで、これまでの学習の成果が真に問われるのです。算数・国語・英語の3教科を講座として別々に行っていますが、私の担当する「算数」では、いよいよ数式を使った学習へ子どもたちを導かなければなりません。「読み・書き・計算」を基礎教育の中心に据えてはならないと言い続け、これまでは「事物教育」を中心に、具体の世界で数学的な思考を育ててきましたが、これからは、その具体の世界と数字で表現される抽象の世界とをつなぎ、数字でものごとの関係を表現する方法を身につけていかなければなりません。幼児期の基礎教育で学習してきた内容を、小学校算数科の内容にどうつなげていくか。ここでこれまでの学習の成果が問われます。

ところで、幼児期の基礎教育として、「数」の学習では、次のようなテーマで学習してきました。

1. 分類計数・数の構成
2. 一対一対応(数の多少)
3. 等分(量と数の等分)
4. 一対多対応・包含除
5. 数の増減
6. 交換
7. 数のやりとり

以上の内容をできる限り生活の中での数体験をふまえて学習し、その中で数の内面化を図ることを大きな目標に掲げて指導してきました。小学校受験も、こうした基礎教育の内容をしっかりやっておけば、十分対応できるものになってきています。そして、こうした「数」領域における学習を、次のような内容で小学校算数に繋げていくのです。

<就学準備講座 「算数」カリキュラム>
第1回「たし算・ひき算って何?」 数の構成とたし算・ひき算
一対多対応・数の構成・数の増減復習/3つの部屋の数の構成/足だし式の練習/話を聞いて式を立てる
第2回「たし算・ひき算の計算法」 音読と聞き取り
数の増減・足だし式・3つの部屋の数の構成復習/暗算練習/プラス・マイナスの記号の理解とその計算法
第3回「隠れた数を探せ」 ブラックボックス・逆思考
逆思考の問題復習/10の構成/3×3方眼による数の構成(数字で行う)/魔法の箱を数字で行う/□を使った式(空欄を埋める)
第4回「かけ算って何?」 一対多対応とかけ算
一対多対応の復習/絵を使ってまとまりを作る練習/かけ算の式の立て方(一あたり量×いくつ分)/立式練習
第5回「わり算って何?」 等分や包含除によるわり算
等分除・包含除の復習/わり算の式の立て方/立式練習
第6回「かけ算って答えをどう出すの?」 かけ算の計算法
×式の意味/かけ算九九表/一対多対応暗算とかけ算/簡単なかけ算 5の段・2の段
第7回「わり算って答えをどう出すの?」 わり算の計算法
÷式の意味/等分除・包含除の意味/暗算練習とわり算の答え方
第8回「話を聞いて式を立て、解いてみよう」 文章題の基礎
短文を聞いて式を立てる/長文を聞いて式を立てる/立てた式を解いて答える
第9回「文を読んで式を立て、解いてみよう」 文章題の基礎
短文を読んで、式を立てる/長文を読んで、いくつかの質問に答える/文章題解決のコツ
第10回「10週授業の総まとめ」

2月3日現在で、5回目まで進みました。特にこれまでは、四則演算の考え方をこれまでの学習に繋げて理解させ、その上で計算トレーニングに進みます。実際の小学校では、1年生で「たし算・ひき算」、2年生で「かけ算」、3年生で「わり算」を学ぶことになっていますが、考え方を重視する私たちの学習では、一気に「かけ算」「わり算」まで進みます。なぜかと言えば、ばらクラスの授業では、生活に即して四則演算すべての数的体験をしてきているわけで、実際の生活は、たし算・ひき算が先で、かけ算・わり算が後・・・ということはあり得ません。数的な体験の中で四則演算すべてを経験しています。思考のレベルでもすべて経験しているとすれば、わり算の理解を3年生まで待つ必要はないというのが私たちの考え方です。ですから、ばらクラスで学んだ内容を4つの計算に繋げてあげればよいのです。つまり、

(1) 数の構成・一対一対応・数の増減・・・たし算・ひき算の基礎
(2) 一対多対応・交換・・・かけ算の基礎
(3) 等分・包含除・・・わり算の基礎

小学校受験で求められている「数」の内容が、このように教科学習の基礎になっていることをお伝えすれば、小学校受験のための学習が将来の「算数科」の基礎をつくっていることがお分かりいただけると思います。だからこそ、その場しのぎの「訓練」ではなく、そうした将来の学習の基礎として「数」を学習しなければなりません。私たちが、指を使った学習ではダメだと言い続けてきたのは、数の内面化を妨げる学習では、将来の基礎をつくることにならないからです。実際に指導してみると、数が内面化している子どもたちの計算スピードは、内面化ができていない子どもとくらべると格段の差となって現れますし、数字の世界で数の関係を表現する力には、相当な開きが見られます。具体から抽象へ、抽象から具体への相互関係ができていないと、小学校算数のどこかで壁に突き当たってしまいます。そうした先を見越した学習法を早い段階から確立しておかないと、今は良くても後々困る事態に必ず直面します。

「あなたたちは小学生ではないんだから、手の指で足りなかったら足の指でも何でもいいから使って答えを出しなさい・・・」そんな受験指導は、まったく先のことを考えない、その場限りの教え込みと言わざるを得ません。見通しを持った基礎教育が徹底されれば、受験のための準備教育が、幼児期の基礎教育として生かされていくはずです。その意味で、就学準備の学習は、つなぎの教育として大変大事な学習と言えます。

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