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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

第34期の授業が始まりました

第505号 2015/10/30(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 都内の入試は11月1日から始まりますが、早くも来年秋に受験する34期生の授業も今週から始まりました。授業に先立ち、10月27日の午前中、ばらクラス生を対象とした教育セミナーを行いました。今回は「柔軟な思考力を育てるために」という演題で、合格に向けてどんな考え方で準備教育を進めるべきかをお伝えしました。

幼児期の基礎教育と小学校受験
「柔軟な思考力を育てるために」 -KUNOメソッドの教育法-
【小学校入試の現状】
  1. 小学校受験の変遷
    a. 知能テストが主体の時期
    b. 相当量のペーパーを使った時期(30~40枚)
    c. ペーパーを廃止した時期
    d. 行動観察も取り入れたバランスの良い現在
  2. 小学校受験のテスト方式(入試改革のモデルになりそうな先進的なテスト)
    a. 学力テスト(認知能力)
    b. 行動観察(非認知能力)
    c. 面接試験
【KUNOメソッド】
  1. 教育理念
    教科前基礎教育 / 事物教育 / 対話教育
  2. 指導内容 -6領域指導-
    未測量 / 位置表象 / 数 / 図形 / 言語 / 生活 他
  3. 教育方法 -事物教育・3段階学習法-
    事物教育はなぜ必要か
    レディネス(準備性)は、成熟によって自然に出現するものではなく、教育や経験によってもっと正確に言うと、子どもの能動的な活動によって、作りだされるものである。(ピアジェ)
    3段階学習法
    「体を使い」 - 集団活動
    「手を使い」 - 個別学習・ものへの働きかけ・具体物教材・試行錯誤
    「頭を使い」 - ワークでのトレーニング
【間違った受験対策にならないように】

私が受験指導にかかわった43年間で、小学校入試の方法や出題内容がどのように変遷してきたかを分析し、今どういう考え方で入試が行われているかをまずお伝えしました。その中で、「幼児期の基礎教育」と「小学校受験のための教育」が、以前のように乖離したものではなく、現在では基礎教育を充実させることが入試対策そのものであり、決して入試が特別な教育を求めているものではないことを強調しました。私が20年間かけてつくり上げてきた、基礎教育のための「ひとりでとっくん」100冊の中から、ほとんどの入試問題が出されており、今や小学校受験の教科書的役割を果たしている現状を見てもわかる通り、受験のための教育が、まともな基礎教育の上に成り立っているということがはっきりしています。そしてまた、そこで求められている能力は教え込まれたものではなく、事物に働きかけ試行錯誤し、自ら獲得した「考える力」にほかなりません。幼児期の教育方法の基本である「事物教育」を排除し、ペーパー学習のみで行う対策がいかに間違っているかは明白です。今回のセミナーで、こぐま会の受験指導の基本である「KUNOメソッド」による基礎教育について、その教育理念と教育方法を具体的にお伝えし、これから1年間の指導の内容をご理解いただきました。

現在の入試は、学力テスト・行動観察・面接の3つがセットになって行われています。もちろん、例外もありますが、多くの学校がこの3点セットで行っています。その結果、ペーパーテストで高得点を取っても、それだけでは合格できない試験です。これまで私が機会あるごとに、「小学校受験は、実力主義だが学力主義ではない」と言ってきたのもそのためです。特に小学校受験の特徴である「行動観察」は、今話題になっている「非認知能力」を見る試験だと考えれば、小学校受験の方法は、時代の最先端を行っていると言っても過言ではありません。学力テストの結果だけで合否が決まっていかない入学試験は、この小学校入試だけだと思います。大学センター試験が変革されようとしている時代の中で、視点を変えて見れば、画期的な試験であるということが言えるでしょう。東大や京大がなぜ推薦入試を取り入れるのか、その背景には、これからの時代は学力だけでは社会に出て成功しない、意欲とか、がんばりぬく力とか、相手を思いやる心とか、コミュニケーション能力等がどうしても必要だという考え方があるからだと思います。その意味で、大学入試でも「非認知能力」を重視し始めたということです。これから始まる学校生活のレディネス(準備性)が備わっているかを見るための小学校入試で、そうした非認知能力を求めるのは、当然なことだと誰もが納得できるはずです。その役割を「行動観察」が担っているとすれば、小学校受験における行動観察の重要性がお分かりいただけると思います。従来、個人の性格として済まされてきたそうした「非認知能力」が、今後の学校生活の中で、ひいては社会に出て行った時とても大事だということでもあります。その意味で合格のために、毎日何十枚とペーパートレーニングするような対策がいかに時代遅れのものなのか、ご理解いただけたのではないかと思います。

しかし、気をつけなければならないのは、認知能力と非認知能力が別個なものとして、どちらの比重が高いか低いかではなく、その2つの視点には、きわめて共通した面があると考えるべきです。私が、今回のセミナーで、「柔軟な思考力を育てる」ことが合格の秘訣だといったのは、単に学力を高めるために必要な視点だけではなく、行動観察においても求められている力であるということです。

では、「柔軟な思考を育てる」ということはどういうことでしょうか、ピアジェは、それは「可逆的な思考を育てること」だと断言しています。可逆的思考とは、聞きなれない言葉かも知れませんが、大きく2つの観点があります。
  1. 視点を変えて物事を見ることができるか
  2. 実際には戻せないが、思考のレベルで時間を戻して考えることができるかどうか
特にこの2つの観点のうち、「視点を変えてものごとを見ることができるかどうか」が重要です。それは、幼児期の思考の特徴と関連しています。幼児期の子どもたちは、ひとつの見方をすると、違う観点で考えることができないといわれています。ピアジェはこれを「知的自己中心性」といい、脱中心化こそが、論理的思考力を育てるカギだと述べています。実際我々も、いろいろな領域の学習の中で、視点を変えてものを見ることの大切さと難しさを経験しています。空間認識の学習である「四方からの観察」は、そうした物の見方が必要であり、すべて自分と同じように見えると思っていた子が、場所が違うと違って見えるということに気づいていく過程がとても大事です。こうした物の考え方は、「観点を変えた分類」や「数のやりとり」などにも典型的に求められる論理的思考力です。では、柔軟な思考力を育てるために必要な、視点を変えてものごとを見るということがなぜ行動観察でも必要なのでしょうか。これは、海外から見た時によくいわれる「日本式教育」のよさの一つですが、「相手の立場に立ってものを考えることができるかどうか」ということです。たとえば、何かトラブルがあった時、お子さまに対し「お友だちの気持ちになって考えてごらん」と言って諭すことがよくあると思いますが、これこそ大事な観点なのです。自分中心のものの考え方から、他者の視点に気づかせることによって、相手の立場に立って考えたり、他人の言うことをしっかり聞いてあげられる態度が身につき、結果として「思いやり」が育っていくのです。最近の行動観察の評価観点の中で、自分の考えを主張するだけでなく、それ以上に相手の言うことに耳を傾けることの重要性が指摘されています。

思考のレベルにおいても、また集団生活においても、違う観点で物事を考えることができる力こそ、「柔軟な思考力」を支える原動力にほかなりません。学習面においてもまた行動面においても、そうした共通した大事な視点を踏まえて幼児期の基礎教育にあたることが大切です。

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