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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

KUNOメソッドをどう伝えたか

第502号 2015/10/9(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 9月の訪問に続き、今回は韓国釜山の西北部に位置する昌原(チャンウォン)市を訪れ、近郊幼稚園の園長先生を対象に、KUNOメソッドによる「幼児期の基礎教育の在り方」について講演してきました。講演会では、KUNOメソッドによる基礎教育の内容と方法をお伝えしましたが、その内容は以下の通りです。
  1. KUNOメソッドの3つの教育理念
  2. 教科前基礎教育の内容(6領域指導)
  3. 事物教育がなぜ必要か
  4. 対話教育の方法
  5. 柔軟な思考を育てるために
     - 具体的な授業で何をどう学ばせるのか -
韓国には、日本のような小学校受験は無いようですが、幼児教育には大変熱心で、幼稚園でもそうした保護者の希望に沿うよう、世界中からいろいろなメソッドを導入しようと努力しています。たとえば、日本ではちょっと考えられませんが、韓国では今、囲碁を教育に生かすメソッドの導入が大変盛んなようです。ロジカルシンキングの育成に囲碁を使おうというもののようです。運動的なプログラムも日本から導入されていますし、英語なども盛んに導入されているようです。そうした雰囲気の中で、「考える力を育てる」プログラムとして、「KUNOメソッド」が注目されています。韓国でも多くの場合、意図的な学習はすべてワークブックを使って行われているようです。しかし、ペーパーワークはどうしても教え込みの教育になりがちで、それを嫌う心ある園長先生方が、こぐま会の事物教育・対話教育に関心を持たれているようです。韓国では、各地区にメソッドを幼稚園に紹介する営業所があり、その営業所を通して、世界各地のメソッドが幼稚園に導入されていくようです。1つの営業所が何十もの幼稚園を管轄していますから、私が講演会に出向くのも、そうした営業所の所長からの要請を受けてのことです。1つの幼稚園で採用されれば、一度に何百人という子どもたちにKUNOメソッドによる教育が行われることになります。しかし、プログラムと教具・教材を渡せばそれで終わりではなく、採用してくださった幼稚園の現場責任者にきちんと指導してもらうために、職員の研修を行わなければならず、そのための人材育成プログラムが何よりも大変です。教育は人あっての仕事ですから仕方ありません。原始的な方法を繰り返していくしか広める方法はありません。

今回のセミナーは、今までと少し伝え方を変えて行いました。現場の責任を持つ園長先生方ですから、指導の実際を具体的に伝えるのが良いと思い、年中・年長児の具体的な授業に即して、「考える力を育てる」のはどういうことかを伝えました。
  1. 未測量における長さくらべ
  2. 方眼における位置の言語化
  3. 四方からの観察
  4. 一対一対応
  5. 交換
時間制限もあった関係で、未測量・位置表象・数の3つの領域の典型的な授業場面を映像として紹介しました。「なぜこの授業が必要なのか」、「何を使って授業するのか」、「どんな発問をするのか」、「子どもはどこで躓くのか」、「わからない子どもにどう指導するのか」。園長先生方にも実際の教具・教材を渡し、生徒になってもらって一緒に考えながら話を進めました。その中で、特に今回話題にしたのは、「考える力」を育てることは柔軟な思考を育てることであり、柔軟な思考を育てるためには、「視点を変えて物事を考えることができるかどうか」だということを伝えました。
  1. 長い方から何番目が言えたら、もっと違う言い方がないか問いかける
  2. 方眼上の位置について、なぜ4つの違った言い方をさせるのか
  3. 反対からの見え方が自分とは違う、ということをどう理解させるのか
  4. 赤より青のほうが3個多いと言えた子が、どうして「どちらがいくつ少ないですか?」「違いはいくつですか?」の問いに答えられないのか
  5. 仲立ちを伴う交換の問題がなぜ難しいのか。また、それをどう解決に導くのか
こうした細かな話は、今まではあまりしてきませんでしたが、参加者が園長先生であるということを踏まえ、「KUNOメソッド」の指導法を具体的に伝えました。その結果、今まで以上に反響があり、来月教育視察団を組んで、私の授業を見るために来日されるようです。

メソッドを伝えるということは、形になったカリキュラムや教具・教材を渡すということだけではなく、「教育理念・教育内容・教育方法」をしっかり伝えることだと思います。ビジネスの前にすべきことがたくさんあり、それを抜きにビジネスに走ることは、将来どこかで大きな壁にぶつかると考えています。国の体制も違い、文化も言語も違うところに、日本発の教育プログラムを伝えることのむずかしさをいつも痛感しながら、この困難な状況を乗り越えなければ、教育は海を渡ることはできないと思っています。今や世界中の子どもたちに提供できるまでにカリキュラムや教具・教材が整備されましたので、日本発の幼児教育プログラムに世界中の子どもたちが参加することをめざし、当分の間、海外講演に出向く機会が増えていくことと思います。

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