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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

夏季講習会でみられた子どもの弱点とその対策 (1)
- 地図上の移動には、3つのタイプがある -

第492号 2015/7/24(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

7月13日から始まった夏季講習会は、2つ目のクールに入り、私もお弁当持ち講習会や、学校別対策講座に参加しています。夏休みは、基礎をもう一度点検すると同時に、難しい過去問に挑戦しなければなりません。この夏の頑張りが、きっと合格に結び付いていくはずです。8月末まで続く講習会での子どもの取り組みの中から、今なお未解決の問題、自信が持てない課題を取り上げ、何が壁になっているのか、どうしたらその壁を乗り越えることができるのか・・・それを数回にわたりお伝えしたいと思います。

お弁当持ち講習会は、朝10時からお昼をはさんで午後2時まで、4時間の講習会です。午前中は学力対策を、午後は行動観察対策を中心に、5日間の講習会として実施しています。最終日には、保護者の皆さまに子どもたちの劇や踊りの発表を見ていただきます。毎年この5日間の講習会で自信をつけ、9月~10月の直前対策を乗り切っています。お友だちとお弁当を食べたり、みんなで劇の発表に向けて練習したり踊りをしたりする、その経験の中で、日頃の学習場面では見られなかった子どもの違う側面が発揮され、トータルとしての子どもに接することによって、その子の良さが発見できます。ペーパーに苦手意識を持っていた子が劇の練習で力を発揮し、そのことがペーパー学習にも意欲を示すといった効果をもたらすということが、毎年よく見られます。毎日4時間教室に通ったということ以上に、さまざまな場面での子ども同士や先生とのかかわりが子どもに自信を与え、ものごとに取り組む意欲を高めていくのです。

私は、午前中の学習部分を担当していますが、ペーパートレーニングばかりをやるのではありません。ペーパー学習の前に、入試にとって重要な課題を、事物やカードを使って学習しています。その学習部分で今なお見られる子どもの弱点を報告し、その課題の克服法もお伝えします。第1回目は、「地図上の移動」です。

地図上の移動は、位置表象の領域での難しい課題の一つです。左右関係の理解が根底にありますが、動いていく他者の視点から見た左右関係の理解ですから、子どもたちにとっては厄介な問題です。その地図上の移動には、大きく分けて3つの出題方法があります。その出題の仕方が、問題の難易度を決める一つの要素になっています。その3つとは、以下の通りです。

(1) 地図を見ながら、移動の話を最後まで聞き、話が終わった後、どのように移動したか、どこに着いたかを答える
(2) 地図を見ながら移動の話を聞き、その話を聞きながらすぐに動いていく。その軌跡と着いた場所を答える
(3) 地図が伏せられた状態で、「話の内容理解」の一環として聞く。話が終わった後、地図を広げ、どのように動いたか、どこに着いたかを答える

一般的に、「地図上の移動」は(1)のタイプが基本ですが、他の出題の仕方もあることを知っておいてください。問題の観点を整理すると、
  1. 地図を見て話を聞くのか、地図を見ないで話を聞くのか
  2. 最後まで話を聞いてから動くのか、話を聞きながらすぐに動くのか
ということになります。地図を見ながら話を聞く(1)と(2)のタイプを比較すると、一般的に記憶の要素のない(2)の方が楽だと思われがちですが、実は問題をやってみると、(2)の方が間違いが目立ちます。なぜでしょう。その理由として考えられるのは、交差点での曲がり方を瞬時に判断しないと、話がどんどん進んでいってしまうということです。特に平面的に描かれた地図で言うと、上から下に向かって交差点に入ってくる場合の右・左が、自分の右・左と逆になるという点の難しさです。この点が解決できれば(2)の方が易しいはずですが、そもそも地図上の移動は、記憶の問題というより交差点の曲がり方の判断ですから、それを瞬時に判断しなければならない(2)の方が難しいことは理解できると思います。こうした認識を踏まえ、今回の講習会では次のようなトレーニングを積みました。

いろいろな方向から入る交差点の曲がり方
(右に曲がる場合)
地図上の移動

  • 上の赤いにおはじきを置いてください。ここからスタートします。
    最初の交差点はまっすぐ行って、次の高い木のある交差点を右に曲がります。
    次の公園のある交差点を左に曲がって、次の交差点にあるお花屋さんに入りました。
    お話のようにおはじきを動かしてください。
  • 右の赤いにおはじきを置いてください。ここからスタートします。
    最初の交差点はまっすぐ行って、次の魚屋さんの交差点を右に曲がります。
    郵便局のある交差点を左に曲がって、ずっとまっすぐ行って公園に行きました。
    お話のようにおはじきを動かしてください。

約束による交差点の曲がり方

  • 動物たちがお家を出発します。
    果物の交差点は右に曲がります。野菜の交差点は左に曲がります。
    その他の絵の交差点は、そのまま真っすぐ進みます。
    それぞれどのお家に着きますか。おはじきを動かして考えてください。

交差点での曲がり方を徹底して練習すること、その上で、話を聞き終わってから動かすこと、そして最後は、話を聞きながらすぐに動くこと・・・こうした基本練習を繰り返した後、今度は地図を見ないで話を聞き、話が終わった後、地図を広げて動くことの練習に進めば、地図上の移動は必ず解決するはずです。地図上の移動に関して苦手意識を持っている子の多くは、「左右関係の理解」にまだ自信が持てない子がほとんどです。他人の右手-左手、他人から見た時の左右関係・・・そうした理解が進まない段階で地図上の移動をやってしまうと、ますます混乱します。ですから、1つの交差点の曲がり方を徹底して理解できたら、今度は話を聞きながらすぐに動く(2)のタイプの問題を繰り返しやるのが良いと思います。

話の内容理解の中に地図上の移動の問題が出される場合、地図が見れない分だけ学校側も説明の仕方を工夫をしています。それは、曲がるポイントに必ず目印があるのです。「ポストのところを右に曲がって」、「花屋さんのところを左に曲がって」・・・というように、「2つ目の交差点を右に曲がって・・・」ではわからない部分を補っています。ですから、そこに出てきた目印になるものを覚えておけば思い出せるような仕組みになっていますので、あまり心配しなくてもよいと思います。

地図上の移動の問題は上記3つが基本ですが、それ以外に応用的な問題もあります。それは、動いていて右側に見えるものを特定したり、交差点に立った時、周りの景色がどのように見えるかを問いかけたりする問題です。これこそ我々大人にも共通する、地図を見て状況をイメージできるかどうか、すなわち「地図が読めるかどうか」ということにつながっています。地図が読めない、あるいは「方向音痴」と言われる大人が多いのも、こうした経験が幼児期からなかったことが原因だろうと思います。

動いている者の立場に立って左右を瞬時に判断できるかどうか、他人の立場に立って左右関係を理解できるかどうか・・・その意味で、地図上の移動の問題は、空間認識を問うとても良い問題だと思います。だからこそ、その分子どもたちにとっては難しいのです。しかし、今回の順序で学習すれば、必ず解決する問題でもあるのです。

実際の入試問題をいくつかご紹介しますので、参考にしてください。

1. 地図上の移動
これからいくつか質問をするので、よく聞いてください。お話ししている間、指を動かして考えてかまいません。
  • クマがお友達のお家に行きます。 最初の交差点を左に曲がってまっすぐ行き、2つ目の交差点を右に曲がります。次の交差点を右に曲がって、2つ目の交差点を左に曲がります。次の交差点を右に曲がって、1つ目の交差点を左に曲がると、お友達のお家に着きます。お友達のお家に○をかいてください。
  • キツネがお友達のお家に行きます。 最初の交差点を左に曲がり、その次の交差点を右に曲がります。そして、その次の交差点を右に曲がってまっすぐ行くと、お友達のお家に着きます。お友達のお家に×をかいてください。
  • ブタがお友達のお家に行きます。 最初の交差点を左に曲がり、次の交差点を右に曲がってまっすぐ行きます。そして、3つ目の交差点を右に曲がってまっすぐ行くと、お友達のお家に着きます。お友達のお家に◎をかいてください。
  • ウシがお友達のお家に行きます。 最初の交差点を右に曲がり、1つ目の交差点を左に曲がります。2つ目の交差点を右に曲がってまっすぐ行くとお友達のお家に着きます。お友達のお家に△をかいてください。
2. 話の内容理解
  • 次のお話を聞いて後の問題に答えてください。
ブタさんの『もぐもぐレストラン』は、スプーンとフォークの絵が屋根にかいてある四角い窓のレストランです。レストランの人気メニューはコロッケです。レストランがお休みの日に、ブタさんは新しいメニューを作ろうと思って、首にスカーフを巻き、水色の水玉模様のお洋服にチェックのスカート、縦に長い帽子をかぶって、お買い物かごを持ってスーパーに出かけました。
レストランを出て少し行くと林があって、その下には黄色いイチョウや、赤いモミジの葉っぱがたくさん落ちていました。
スーパーに着くと、買おうと思っていたジャガイモとタマネギはありましたが、ニンジンが売り切れていました。「これでは何も作れないな」とブタさんが思っていると、近くにいたネコさんが「ニンジンならウサギさんがたくさん作っているから、分けてもらえるんじゃない?」と教えてくれました。ブタさんは、ジャガイモとタマネギを買ったあと、ウサギさんのお家に行ってみることにしました。
スーパーを出て少し歩くと川があります。その川にかかった石の橋を渡ると、ウサギさんのお家です。ウサギさんのお家に着いたブタさんは、スーパーでニンジンが売り切れていて買えなかったことをウサギさんに話しました。ウサギさんは「たくさんできたから、どうぞ」と言って、ニンジンを分けてくれました。ブタさんはウサギさんにお礼を言って、ウサギさんの家を出ました。
レストランに帰る途中、森の近くでリスさんに会いました。リスさんはドングリをくれました。リスさんと別れたあと、パン屋さんの前を通って橋のところに行くと、今度はクマさんに会いました。
クマさんは「これでおいしいものを作ってね」と言って、ブタさんにクリとキノコをあげました。橋を渡ると、ウシさんの牧場がありました。ウシさんには、ビンに入ったミルクをもらって、レストランに帰りました。
次の日、レストランからいい匂いがしてきました。その匂いは、山や森の奥まで届きました。おいしそうな匂いをかいで、あちらこちらから、たくさんの動物たちが集まってきました。レストランの新しいメニューはグラタンです。一番最初に並んだのはシカの親子です。パンダさんは、子どもが熱を出してしまったので、お父さんだけが来ていました。最後に並んだのはクマさんです。クマさんは並んでいる途中、お腹がグーグー鳴ってしまいました。みんなは「おいしいね」と言いながら、グラタンをお腹いっぱい食べました。
  • ブタさんがスーパーで買い物をしたあと、帰るまでに通った道を線でたどってください。

3. 話の内容理解(地図上の移動)
あきちゃんのお家はパン屋さんの近くです。とても近いけれど、あきちゃんのお家の方からは入ることができません。
あきちゃんはお家からどのような道を通っておばあちゃんのお家へ行ったのでしょうか。これからするお話をよく聞いてください。
  • あきちゃんはお家を出てまっすぐ進み、はじめの交差点を左に曲がり、次の交差点も左に曲がってパン屋さんに行きました。パン屋さんを出て1つ目の交差点をずっとまっすぐ行き、公園の前を右に曲がってずっとまっすぐ行って、次に左に入る道を左に曲がっておばあちゃんのお家に行きました。あきちゃんが通った道を青い線でたどってください。

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