ページ内を移動するためのリンクです
MENU
ここから本文です
週刊こぐま通信
「室長のコラム」

第11回女子校合格フェア 「入試が変わる」

第480号 2015/4/24(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 女子校合格フェアは今年第11回目を迎え、4月19日午前に「入試が変わる」をテーマに基調講演を行いました。

(1) なぜ小学校の入試問題は変化しているのか
(2) 問題が易しくなったとはいえ、なぜ作業能力を求める問題が増えているのか
(3) なぜ行動観察や面接が重視されていると言われているのか
(4) なぜ小学校側が受験産業の対策のあり方に警鐘を鳴らしているのか

小学校入試でこうしたことが言われている背景には大きな理由があります。それは、大学入試も含めた入学試験のあり方に変化が見られ始めているからです。皆さまもご存じのように、近い将来、大学入試センター試験が廃止されようとしています。また、東大や京大においても推薦入試が平成28年度から実施される予定です。こうした動きは、従来の「学力観」に大きな変化が見られていることに因ります。つまり、点数で評価される暗記型の学力観では、これからの時代に必要な創造的な人間が育成されないと考え始めているからです。

最近話題になっていることですが、「10年後には今の職業の半分近くがなくなり、人工知能に取って変わる」と言われています。そうした世の中で人間に求められているのは、コンピューターをどう使いこなすかという判断であり、それは論理的な思考力によってしか創造できないものです。昨年暮れに中央教育審議会から答申された「我が国の未来を見据えた高大接続改革」を読むと、平成19年の学校教育法の改正により示された従来の学力観に変わる新しい考え方を踏まえ、入試改革に臨む姿勢が強調されています。踏襲された学力の三要素は次のようなものです。

(1) 基礎的な知識及び技能
(2) これを活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力
(3) 主体的に学習に取り組む態度

これらを総合して「確かな学力」としています。そして、「豊かな人間性」「健康・体力」「確かな学力」を総合した力を「生きる力」として括っています。従来の学力観の中心であった「知識や技能」を身に付けるだけでなく、話し合ったり自己表現し合うことを重視し、且つ、物事を成し遂げようとする意欲を最大限評価しようとしています。こうした流れで見ていくと、小学校入試の変化の背景がよくわかります。

昨今、複数の学校の行動観察考査において、校長が志願者全員について自ら観察しはじめたと言われています。これは、点数化できない部分、たとえば表現力・意欲・コミュニケーション力などについて、1人の人間がすべての子どもの評価を行うという仕組みにほかなりません。これは私が常々主張してきた、小学校入試は実力主義ではあるけれど学力主義ではないことの具体例のひとつです。基調講演では、こうした世の中全体の動きの中に小学校入試を位置づけ、以下のような内容でお話しさせていただきました。

第11回女子校合格フェア 基調講演 「入試が変わる」
1. 大学入試の変化に象徴される「学力観」の変化
a. センター試験をなぜ廃止しようとするのか
b. 東大・京大がなぜAO入試を採用しようとしているのか
c. 「生きる力」としての学力観
2. 受験者数の減少傾向と保護者の意識の変化
a. リーマンショック後の経済的背景
b. 3・11震災の影響
c. 一貫校進級に関する考え方の変化
d. 公立校の復活
3. 学校側の対応はなぜ変わってきているか
a. 定員割れの危機
b. 保護者のニーズに合った学校運営
c. 情報公開(幼児教室向け・受験者向け)
d. 受験者に寄り添った改革
4. 入試問題の変化
a. どのように変化してきたか
b. 最近の入試問題の内容
5. 合否判定の変化
a. 行動観察・面接の重視はなぜか
b. 学力主義ではない小学校入試
c. 家庭教育の重視 「子育ての総決算としての入試を」
6. 受験対策の在り方に対する学校側からの警鐘
a. 入学後の子どもを見て、受験勉強の在り方を懸念
b. 知識の詰め込み・型の教え込みに対する警告
7. 変化する入試にどう対応すべきか
a. 受験対策を、ペーパーを毎日何十枚とやらなければ合格できない特別な教育と考えない
事物を使い系統だった学習を心がける
b. 自ら判断し、自ら行動できる子どもに育てるために、ものごとに働きかけ試行錯誤する経験をたくさんもたせる
c. 集団活動の中でさまざまな経験をさせ、自己表現能力を育てる

私たちにとって大事な事は、「変化する入試」を正確に受け止め、間違った受験対策で子どもたちの成長する芽を摘み取らないということです。

今世界中で幼児期の教育の重要性が叫ばれています。受験をされる皆さまにとって、当面の目標は志望する学校に合格することですが、それだけでなく、正しい基礎教育を通して将来の学習の基礎をつくる契機にしていただきたいと強く願います。小学校受験は、特別な教育が必要なのではありません。系統だった正しい基礎教育と、年齢にふさわしい家庭教育による「子育ての総決算」として、入試を受け止めていただきたいと思います。

PAGE TOP