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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

韓国の幼稚園での授業見学

第479号 2015/4/17(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 4月12日から3日間、韓国釜山近郊の幼稚園で行われている「KUNOメソッド」の授業を見学してきました。今回は、私が授業をするのではなく、すでに導入してから3年経つ幼稚園での実践現場をぜひ見ていただきたいという韓国側からの要請に応じ、年中と年長の授業を見学しました。韓国は3月が新学期のため、すでにステップ1の授業が開始されており、今回は、年中は分類の授業、年長は図形の授業でした。

9時半過ぎから、スクールバスで各方面から次々に登園してくる子どもたちは、日本の小学生のようにランドセルに似たカバンを背負っていました。入り口で担任の先生に迎えられ、各教室に入って準備をします。10時半過ぎから年中の授業を見学し、続いて11時15分ごろから年長の授業を見学しました。園長先生の話によると、35分一区切りの時間割で、同じテーマを週2回ずつ行っているようでした。



年中の分類の授業は、生活用品をカード化した教材を使い、ものの名前、用途等もしっかり確認した後、「私は誰でしょう」というクイズ形式で物の特徴を捉え、それにあてはまるものを探すというゲームを行っていました。先生と子どもだけでなく、子ども同士が問題を出し合い、それに答えるといったトランプ形式のゲームも取り入れ、大変盛り上がっていました。今回の授業はそこで終了しましたが、週の後半、今度はテキストを使って同じテーマの学習をするということです。

年長クラスは23名出席していました。袋の中に入っている厚紙でできた基本図形のうちの1枚を、目隠しをして取り出し、その形の特徴を言ってから名前も言い、見ている子どもたちに正解かどうかの判断をさせるという形式で、授業が進んでいきました。その後、5~6人ずつのグループに分かれて椅子に座り、8本の竹ひご(長いもの4本、短いもの4本)を使って、指定された形を作る練習をしていました。辺の数や辺の長さに注意して作っていくうちに、基本図形の性質について理解していけるはずです。この経験が図形模写に生きてきて、特に斜めの線の多いひし形の模写にはとても有効な経験です。

こぐま会の基本クラスで行っている幼児期の基礎教育の実践が、こうした形で生かされていくことを大変うれしく思いますが、これまで幼稚園などで実践していく場合、いろいろな問題点が指摘されてきました。

1. まず子どもの人数に関しての懸念です。日本でも行われているように、30人1クラスを、1人または2人の先生が見ていく場合、こぐま会と同じような形式の授業ができるかどうかを大変懸念していました。実際、幼稚園関係者と話をしていて、いつも問題になるところです。これまで私は、もし30人ならば2つのグループに分けてやることを提案してきましたが、今回の見学を通じ、グループ化して作業させることを前提に考えれば、25名でも集団授業は可能であると感じました。

2. 韓国の園長先生方が、恵比寿で行っている私の授業を見学された後のセミナーで、自分たちは注入主義の教育法を指導されてきたので、子ども主体の「KUNOメソッド」を実践する際に、どうしても教え込みの授業になってしまうのではないか・・・という不安をいつも訴えていました。しかし、今回の2つのクラスを見る限り、一切教え込みの授業ではなく、子ども主体の楽しい授業でした。授業後の懇談会の席で、私はまずその点を評価しました。子どもと教師、子ども同士の関係がすごくうまくいっているのは、それまでの積み重ねがしっかりできているからではないか・・・と評価したところ、やはりこの3年間で一番苦労したのはその点だったようです。最初のころは集中して教師の話を聞いてくれず、それではいけないと思い、子どもとの関係づくりについて、いろいろな試みをされたようでした。教師と子どもとの関係だけでなく、子ども同士の関係を授業の中に持ち込むことによって、その日に行う集団授業の中で、全員の子どもたちが静かに先生の話を集中して聞き、発表もしてくれるようになったということです。私自身も実践者の1人ですから、1人残らず授業に集中させるために、あの手この手といろいろ工夫していますが、その点の努力が良くわかりました。

私自身が開発したプログラムでの授業を、海外の幼稚園で実践されているところを見学するのは初めての経験でしたが、幼稚園の教育の中で生かされているということを知り、大変幸せな気持ちになりました。また、現場で成功しているその陰に、多くの人たちの努力があることもよくわかりました。KUNOメソッドを導入することに賛同してくださる各地の営業所の中に、幼稚園の先生を指導する担当者がいて、その方が現場での子どもの様子や、希望・意見をくみ取って、それを韓国のKUNOメソッド本部にあげ、本部の担当者が営業所に出向いて一つ一つ具体的に解決していく、またその園にみあった形にカスタマイズしていく・・・そうした人たちの努力があって、KUNOメソッドを実践する教師が育成されていく流れを知りました。教具・教材だけ提供すればよいのではなく、教師の育成も含めたメソッドの提供をしていかないと、教育の本質が正しく伝わらないということをあらためて感じました。

今、6,000名近い韓国の子どもたちが、「KUNOメソッド」のプログラムで学習しています。これまでは、このメソッドを広めるために、講演会や公開授業等を精力的に行ってきましたが、これからは、実際に行われている幼稚園に出向いて実践指導をしていかなければなりません。6月には1週間をかけて韓国全土を回り、講演会と実践指導を行う予定です。

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