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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

これからの小学校入試の行方

第466号 2015/1/9(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 2015年度の入試も筑波大学附属小学校の入試を終えて、一段落しました。ただ、年を越しても補欠合格者の動きは続いており、まだまだ学校側も安心できません。補欠合格者の動きが多いということは、学校側から見るとあまり好ましくはないようです。定員割れを起こして4月の新学期をスタートするわけにもいきませんし、学校の評価につながるのではないかという懸念も持っているようです。しかし、別の見方をすれば、実力主義の証明のようなもので、送りだす側から見れば公平な合否判定校として見ることができ、好ましいことでもあるのです。

この補欠合格者の扱いに関しては、40年間も入試に関わってくると、その変遷ぶりに驚くこともしばしばあります。もともと補欠合格者は、合格発表の際に、正規合格者の横に掲示されていました。それが、いつの間にか発表の仕方自体が変化し、最近では、補欠合格者を掲示しないで郵送でのみ知らせたり、補欠合格の番号が付いていないケースも増えてきました。もちろん学校側では、きちんとした番号を付けているのだと思いますが、それをあえて公表しない理由は何なのでしょうか。補欠合格者の動きがわかってしまうと、それが即学校の評価につながると考えているからなのでしょうか。また、現在の方法に至るまでに、同じ補欠番号を複数出したり、A, B, Cといったグループ分けで公表し、Aに一体何人いるのかわからない状況で受験者に知らせた学校もありました。いわば、幼児教室側に動いた人数を把握され、それが公になることを恐れたのでしょうか。こんなに込み入った手立てをしなくても、正々堂々と昔のように番号を付けて公表し、公明正大にやっていることのほうが、学校に対する印象も良いし、冒頭で述べたように、送り出す側からしてみれば、「実力主義」の証明であると受け止めることができるはずです。合否判定に関しては、透明性を持たせた方が好感が持てるはずです。

ところで、2008年度の入試あたりから顕在化した、私立小学校への受験者の減少に関しては、歯止めがかかったのかどうか、学校側の公表を待つまではわかりませんが、だいぶ落ち着いてきたのではないかと思います。今年は、11月2日が日曜日だった関係で、宗教上の理由から若干試験日がずれた学校もあり、そうした関係で、倍率が伸びたところもあれば減ったところもあるというのが事実だと思います。経済的な背景や、震災後の家庭の考え方の変化、また公立高校の頑張りなど・・・改めて「なぜ小学校から遠くの学校に行かせなくてはならないか」ということを保護者の皆さまは考え始めているのではないかと思います。そうした保護者の考え方の変化に、学校側がついていっているのかどうか。補欠合格の動きに敏感である必要はありますが、それよりも、保護者が何を基準に学校を選択しているのか、もう少し受け止める必要があると思います。
さて、コラム第463号(「今年の入試から何を読み取るか(1) 出題傾向が変わってきている」)で総括したように、今年の入試は前年と比べてそれほど大きな変化はありませんでした。しかし一方で、確実に変わりつつあることを実感しているのも事実です。その背景にいったい何があるのか、大体の見当は付いていますが、これからの入試の行方を考える意味でも、2015年度の入試はしっかりと分析しておく必要があります。私たちが注目しているのは、

なぜ、入試問題が知識の量を求めたり、繰り返しのパターントレーニングで解決する問題を避けて、思考力を問う基本問題に回帰し始めたのか

という点です。これを明確にすることによって、ペーパー中心の準備教育のあり方を考え直さなければならない時期に来ているということです。

一つ一つの問題を見れば明らかなことですが、ペーパートレーニングだけで身に付けた能力では解決しない問題が増えています。それは別の言い方をすれば、ペーパートレーニングを何千枚やろうと、同じ問題は出ないということです。また、1枚のペーパーができたかできなかったかを問題とするのではなく、その1枚のペーパー学習で、どんな思考力を身に付ければよいのかが日常的に問われているのです。正解するための手立てを教え込んでも、それは何の力にもならないということであり、自分で問題に立ち向かい、自分の力で問題を解いていくには、ペーパー学習の前にすべき大事な事があるということです。それが、事物に働きかける経験であり、答えに至る思考のプロセスを自分の言葉で説明するという経験の大切さです。この幼児期の基礎教育の原理原則が、今入試で最も問われている点なのです。

2020年にセンター試験が廃止されるようです。知識偏重のこれまでの日本の教育が、大転換を迫られている状況です。「考える力」を大切にする教育が、これから小学校でも行われていくはずです。今年の問題を見ても、そうした世の中全体の動きが、小学校入試の問題作りにも反映し始めていることがよくわかります。ペーパートレーニングだけを徹底して行うような「特別な教育」で入試を目指すのではなく、幼児期における基礎教育の実現に向けた教育の中で、入試問題も解決していくような準備教育をしていかないと、現在の入試に対応できなくなるだけでなく、大事な幼児期の教育を間違った方法で行う結果になり、取り返しのつかないものになってしまう危険性があるということを知っておいてください。こぐま会が30年間実践し続けてきた基礎教育の理念と方法が、国の方針だけでなく、小学校入試でも採用され始めたということです。

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