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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

今年の入試から何を読み取るか(2)
作業性の高い問題が、なぜ増えているのか

第464号 2014/12/20(Sat)
こぐま会代表  久野 泰可

 12月7日の全体総括に引き続き、12月14日から主要校についての「学校別入試分析セミナー」が始まりました。14日は、午前中に聖心女子学院初等科、午後は雙葉小学校について、今年の入試問題の分析を行いました。両校とも、定員を超えて大勢の保護者の皆さまにご参加いただき、注目度の高い学校であることをあらためて感じました。両校とも、ペーパー試験と行動観察の内容を紹介し、そこで学校側が何を求めているのかを分析しました。年明け以降も引き続き学校ごとに分析し、今年の傾向とそれを踏まえた対策をしっかりお伝えしたいと思います。

前回の報告でもお伝えしましたが、今年の入試の一つの特徴として、論理的思考力を求める問題が減った代わりに、指示をしっかり聞き取り、その約束に基づいて作業し、答えを導き出すような問題が増えています。一見すると易しそうに見えますが、子どもが実際にやってみると結構難しい問題、間違いやすい問題が多いように思います。前回もご紹介しましたが、もう少し詳しく見てみましょう。

位置の移動
バッタとカタツムリがマスの中を矢印の方に進みます。
バッタは3つとばしで4つずつ進みます。カタツムリは1つずつ進みます。
  • 2匹が一緒に進んだとき、同じところに着いた場所に青でをかいてください。
また元の場所に戻ります。今度はお約束が変わります。バッタは1つずつ進みます。カタツムリは1つ進んだら、1回休みます。
  • このお約束で2匹が一緒に進んだとき、同じところに着いた場所にエンピツでをかいてください。

これは、聖心女子学院初等科で今年出された問題です。我々の分類法によれば、位置表象領域における「すごろく移動」の発展ですが、小学校の「旅人算」につながる考え方が求められている問題です。この問題は、まず基本的には、約束に沿って自ら動いてみてはじめて答えに到達します。作業をして答えを導き出すと言っている意味はそこにあるわけです。見て考えて答えが出るわけではありません。また、その作業にも工夫や集中力が必要です。最初の問題では、片方は1つずつ動き、もう一方は、4つずつ動くという約束の違いが作業を複雑にしています。それでも、この最初の問題はおそらく解決できただろうと思いますが、問題は2問目です。片方は1つずつ進み、もう片方の動き方も1つずつで同じですが、1回動いたら次は1回休むという約束です。結果的に、片方は1つずつ進み、もう片方は2つずつ進むということになるわけですが、そこまでの理解は子どもには無理です。ですから約束に基づいて動くしかないのです。その結果導き出されたものを答えとするのですが、その作業がどのようにできたのか。それを考えると、相当難しかったはずです。こうした作業を通して答えを求める問題は、今の中学校入試でも一つの傾向になっているようです。特に、図形問題はほとんどそうした問題が多いようです。

ところで、今年の図形問題に次のようなものがありました。

図形構成
3つの家の中にパズルと同じ大きさのに分ける線をエンピツでかいてください。パズルを当てながら考えてもいいですよ。

これは、「図形構成 - 図形分割」の問題として分析できますが、三角パズルを使って同じような「家」をイメージできるものを作るとき、基本となる三角パズルをどのように使うかを問う問題です。そして、この問題の特異性は、わざわざ実際に三角パズルを2枚ほど与えていたという点です。わからなくなったらこのパズルを使って良いですよという指示があったようですが、なぜわざわざ実物を与えているのか・・・これは幼児に実際に接したことのない方にはわかりにくいのですが、幼児はものごとを観察する時、全体の形の特徴には敏感であっても、大きさや長さに関しては意外と無頓着であるということです。ですから、8枚で作る見本を4枚で作ってしまったり、4枚で作るべきものを2枚で作ってしまったりということはよくあるのです。今回のお手本も、形だけにこだわれば、家の形は、3枚でも4枚でも6枚でも似たような感じの家ができてしまいます。そこに長さとか大きさという観点を入れるとすると、それを判断する基準が必要になってきます。その基準となる形が、実物の三角パズルということになっていたわけです。見方を変えれば、あるものを一単位とした時、いくつでできた形(家)なのかを問いかけているのです。この学校の過去の入試でも、「広さくらべ」が何回か出題されたことを考えると、その発展形として、「個別単位と図形構成」がセットになった問題だと見ることもできるのです。与えられたパズルを使わなくてもできた子はいたかもしれませんが、こうした「道具」を有効に使える力が、将来の学習のレディネスになっていくと考えているのでしょう。

以上、みてきたように、昔の知能テストの問題のように、繰り返しのトレーニングによって解けるような問題ではなく、作業を通して答えを導き出す問題が、小学校入試においても主流になりつつあります。それは、今の子どもたちの現状を反映した問題だということもできます。つまり、知識だけは豊富であるが、それを使いこなし、応用して何か新しいものを生み出す力になっていないという今の子どもたちの現状が、相当影響しているのではないかと思います。身につけた能力で新しいものを生み出すためには、働きかけが必要です。人に対する働きかけも、ものに対する働きかけも、今の子どもたちは相当苦手であると聞きます。子どもたちがおかれた教育環境の影響がいちばん大きいと思いますが、そうした子どもたちの成長を見ていて、きっとこのままでは伸びないと学校の現場の先生方は感じているのではないでしょうか。それは、言葉を変えて言えば、「与えられた知識の豊富さだけでは、問題解決の力にならない」「自ら苦労して獲得した知識でなければ、将来活用できない」と考えているからにほかなりません。

難問・奇問が減り、見た目に易しくなった問題ではありながら、実際に解こうとすると、かなり多面的な能力が必要な問題が増えているのは、そうした背景があるのではないかと思います。「年長の11月の学力なんて将来の学力を保証しない。それよりも、遊べない子は伸びないんだよ」とおっしゃっていたある学校の校長先生の話を思い出しますが、将来の学力の基礎としていったい何が必要かを、学校側は良くつかんでいるなと感心します。与えられた問題を自分自身で試行錯誤しながら解いていくような経験こそが、新しいもの、新しい価値を生み出す力になっていくという、そうした感覚が、ここ最近の問題に見え始めていることは、本当に良いことだと思います。つまり、自分で考える自立した思考が必要だということです。詰め込み式のペーパートレーニングによって受験対策をする時代が終わったということは、こうした問題を見ていくと実によくわかります。

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