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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

なぜ「四方からの観察」が注目を集めるのか

第428号 2014/3/14(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 2年ほど前にソウルで講演会を行った際、算数の教科書編さんに携わっている韓国の大学教授を含めた数名に、こぐま会の授業内容をプロジェクターを使って説明していた時のことです。それまで、じっと腕組をして私の話を聞いていた教授が、空間認識の授業の一つである「四方からの観察」の話をした際、突然メモを取り始めました。相当関心があったようで、その後詳しい説明を求めてきました。また上海で、ピアジェを専門としている大学の教授に、こぐま会の教育を紹介している時も、この「四方からの観察」の授業はすばらしいとコメントしていただきました。日本においては、文部科学省から出向されている大学教授を含めた数名に、こぐま会で実践している教育内容をお話しした際も、セミナー終了後、その大学の先生が私のところにみえて、「四方からの観察」のような空間認識を育てる授業を「小学校でもやるべきですね」と、お話しされていました。こぐま会で行う授業の中でも、典型的な事物教育として工夫してきた授業ですが、専門家の皆さまから評価していただけるとは思ってもみなかったことです。

小学校入試でも昔はよく出されていた課題です。ここ数年間はあまり出されていませんでしたが、2013年度の入試で6校もの学校がこの課題を扱い、2014年度の入試でも多くの学校がこの課題を出していました。以前と何が違うのか、その最大の違いは、「生活用品」ではなく「つみ木」を使った四方観察であったということです。韓国の大学の教授が着目し、また小学校入試でも、突然多くの学校でこの課題を再度扱い始めたことを見ると、いま研究者や実践者の間で「空間認識をどう育てるか」が話題になっているのかもしれません。

この課題は、心理学者である「ピアジェ」が行った有名な実験がもとになっています。ピアジェは、粘土で作った大きさの違う3つの山を、四方から見た時どのように見えるかを考えさせる問題で思考実験をしていましたが、つみ木と同じように半具体的なものなので、子どもにとってはあまり楽しくない内容です。その実験を踏まえ、楽しく関われる教育の課題にしたのが、こぐま会で開発した「四方からの観察」学習のためのプログラムです。

この課題を、ばらクラス第20週の授業で取り上げました。大事な課題ですので、26週でも2回目の学習をしますが、難易度を変えた授業内容になっています。2回行うこの授業を、どのような順序で組み立てるか、その流れは大体以下のようになっています。

  1. なぜ場所が違うと同じものが違って見えるかを実感するために、一つの物(たとえばヤカン)の見え方を写生し、子ども同士で比較してみる
  2. いろいろなものの見え方を、その場にいかないで判断する(カードを使用)
  3. 反対からの見え方を、自分との見え方と比較しながら考える(選択肢から選ぶ)
  4. 2つ以上の物の見え方を、その場にいかないで判断する(カード使用)
  5. 2つ以上の物の見え方を、その場にいかないで自分で絵に描いてみる。特に反対からの見え方を絵で表現する

大体以上のような流れで学習すれば、相当難しい課題も解決できるはずです。あとは何を素材にするかです。逆にこの順序を踏まえないで、最初からペーパーで学習するような方法では、子どもは混乱します。自分で体験すること・・・これに勝るものはありません。そのために、どんな内容を準備するかが大事です。

ところで、なぜこの「四方からの観察」の授業が着目されるのでしょうか。それは、空間認識を育てるとともに、論理的思考力を育てるために重要な「他者の観点に立つ」という思考訓練をするには、とても意味のある授業だからです。視点を変えてものごとを見るという、論理的思考力を育てるための大事な経験の一つが可能だからです。ピアジェは、論理数学的思考を育てるためには、「可逆的な思考」ができることをあげました。「可逆的な思考」を可能にするためには、「元に戻る」発想と「視点を変えてものごとを見る」ことが大事であると主張しています。幼児期の基礎教育においては、このように空間認識の学習をしながら、実は「論理」の学習をしているということがたくさんあるのです。その意味で、「学習領域を越えて育てなくてはならない課題は何か」を指導者がしっかり理解していないと、貴重な教育チャンスを逃してしまうということにもなりかねません。

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