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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

受験対策の学習がその後どう生かされるか

第393号 2013/6/21(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 昨年秋に受験を終え、今年4月に入学した子どもたちは学校にも慣れ、小学校での「はじめての夏休み」を迎えます。こぐま会では、受験終了後の1月から始めた「就学準備クラス」に続き、4月から「幼小一貫授業」として小学部の授業を行っています。私も現在、算数に特化した「ひまわりクラブ」を引き続き担当していますが、6月18日で第2期全10回の授業が終了しました。

「ひまわりクラブ」 幼小一貫 思考力育成クラス
第2期(全10回) 4月~6月
第1回 3つの数の計算はどうするの?
第2回 くり上がりの計算はどうするか
第3回 くり下がりの計算はどうするか
第4回 逆思考の問題をどう解くか
第5回 いろいろなタイプの文章題に挑戦しよう
第6回 くり上がり・くり下がりの計算と位取り
第7回 2段階複合問題の解き方
第8回 計算オリンピック
第9回 Xを使った式を立ててみよう
第10回 第2期 授業の総まとめ

算数に特化したこのクラスでは、就学準備の時から、ばらクラス(年長児)で行った学習を基に、四則演算全てを学習することを目指してきました。たし算・ひき算だけでなく、かけ算・わり算も簡単な計算はできるように指導してきました。幼児期に学習した内容を踏まえれば四則演算全てできるのに、指導要領の通りにわざわざ3年間かける必要はありません。2年生で習うかけ算も、3年生で習うわり算も、考え方の基礎ができているならば、できるだけ早いうちに数式化した計算の法則は伝えるべきだと考えています。かけ算は「一対多対応」、わり算は「等分除」「包含除」の考え方をもとに、生活の中で起こる数の変化をしっかり捉えさせ、それを抽象化した数式に置き換え、答えを導きだす方法を伝えたいと考え、指導してきました。

4月からの第2期の指導を終え、子どもたちの学力はどこまで伸びたのか。また、解決している問題と未解決の問題とを明確にするために、第10回目の授業は、まとめの授業としてテスト形式で行いました。実際に行った問題は以下の通りです。

1. たし算・ひき算
正確に早く計算しましょう。
全ての基礎になる、10までのたし算・ひき算は問題なく全員できました。スピードは多少個人差がありますが、指を使って行う子は1人もおらず、問題はありません。

2. くり上がり・くり下がりの計算
正確に早く計算しましょう。
1番下の段の問題は、たし算とひき算が混ざっていますので気をつけてください。
2桁以上の大きな数の計算の基礎になる内容ですが、くり上がりの計算方法・くり下がりの計算方法は、言語化できるまで徹底してやりましたので、これも問題なくできました。

3. かけ算 九九表
2の段から9の段のかけ算です。わかるところに答えを書きましょう。
九九の暗唱は、毎授業時間を見つけて行っていますが、各段とも5秒以内で言える子もたくさん出てきました。数が大きくなる7・8・9の段がまだ完成していない子がいますが、かけ算九九の暗唱は、興味を持たせれば簡単に習得できるはずです。

4. わり算
わり算の計算です。正確に計算しましょう。
かけ算九九が完成していない時期は、考え方で解いてきましたが、かけ算九九が暗唱できるようになって、計算スピードはかなり短縮されてきました。個人差はありますが、かけ算九九でまだ十分理解できていない、7・8・9段あたりが問題になると、多少時間がかかるようです。九九の暗唱スピードによって、わり算の計算速度はかなり上がるはずです。

5. 9マス計算
計算の答えをマスの中に書き込んでください。
たし算・ひき算・かけ算・わり算があります。
有名になった100ます計算のミニ版です。これくらいの問題数ですと、集中力を欠くことなく、問題に取り組めます。わり算の問題で少し時間がかかるようでしたが、ほとんど正確に行っていました。

6. 読み上げ算
これから計算問題を読み上げますので、みなさんはそれぞれの枠の中に、答えだけを書いてください。
  • たし算の問題です。1番左の枠に上から順番に書いてください。
    (1) 4+3  (2) 2+8  (3) 5+4  (4) 2+7  (5) 6+6
  • ひき算の問題です。
    (1) 8-5  (2) 6-4  (3) 9-7  (4) 8-2  (5) 10-3
  • かけ算の問題です。
    (1) 2×5  (2) 3×4  (3) 5×6  (4) 4×8  (5) 9×9
  • わり算の問題です。
    (1) 6÷2  (2) 9÷3  (3) 12÷4  (4) 15÷3  (5)20÷4
暗算練習の極致みたいなものですが、良くできています。指をつかわないで指導してきた結果、こうした課題になるとこれまでの努力が生かされ、指を使う子とでは、相当の時間差がついていきます。教育は先を見越して行うことが大事ですから、幼児期から指を使わせないで、暗算する習慣をつけさせるべきです。受験のためとはいえ、指を使ってその時だけ解決する方法では、入学後の計算練習で壁にぶつかります。将来の学習にとって意味のある方法を幼児期から身につけさせなくてはだめです。

7. お話を聞いて式を立てる
これからするお話に合うように、式を立て答えを出してください。
A) 15個のサクランボを、5人で同じように分けると、1人いくつもらえますか。
(15÷5=3 答え:3こ)
B) 車が駐車場に4台止まっていました。少したつとまた5台入ってきましたが、すぐに3台出ていきました。今、車は何台ですか。
(4+5-3=6 答え:6だい)
C) 太郎君はイチゴを8個食べました。ひろし君は太郎君より5個多く食べました。ひろし君はいくつ食べましたか。
(8+5=13 答え:13こ)
D) 赤組のお友だちは全部で15人います。そのうち男の子が7人です。女の子は何人いますか。
(15-7=8 答え:8にん)
E) 魚つりに行って、太郎君とひろし君と次郎君は、みな4匹ずつ釣りました。3人合わせて何匹釣りましたか。
(4×3=12 答え:12ひき)
F) 冷蔵庫にジュースが8本冷えています。1本のジュースを2人で分けて飲むと、何人の人が飲めますか。
(2×8=16 答え:16にん)

文章題へのつなぎとして重視してきた課題の一つです。ここにある問題は、受験対策としてばらクラスで行ってきた問題ばかりです。これまでは、絵に描いたり暗算したりして答えを出してきましたが、今度は式を立てて答えを出さなくてはなりませんから、幼児期に答えが出せたからと言って、簡単に数式に置き換えられるわけではありません。しかし、こうした繋ぎ方をすることによって、算数における「考える力」が育っていくのです。一度やったことがあるな・・・と思いださせることが、考えるきっかけをつくる意味で大事なことです。

8. 文章題(A)
文を読んでそれに合う式を立てて答えを出してください。

(1) 6+4-2=8 答え:8にん
(2) 3×5=15 答え:15こ
(3) 5-2=3 5+2=7 7-3=4 答え:4こ
(4) 9-3=6 6÷2=3 答え:3びき
私たちが、小学校低学年の算数で一番重視している文章題指導です。計算ができても、応用問題(文章題)になるとまったく手がつかない・・・という計算主義の算数を克服するためには、幼児期に学習した内容をそのまま持ち込み、答えに至る道筋を数式で表現する方法を徹底して学習することが大事です。ここにある4問も、すべて幼児期に受験対策として取り上げてきた問題ですが、答えが出ても式が立たないということがよくあります。それを克服して、考えの道筋を数式に置き換える練習が算数的思考力を育てるのです。今回は(4)の問題で、答えは出るけど式が立たないという子が多く見られました。

9. 文章題(B)
文を読んでそれに合う式を立てて答えを出してください。話の中でわからない数は、Xにして考えてください。

(1) x+4=10 → 10-4=6 答え:6にん
(2) 3×4=12 12+4=16 答え:16まい
(3) x÷3=6 → 6×3=18 答え:18こ
(4) 12÷2=6 12+6=18 答え:18こ
(1)の問題は、受験対策としては、「逆思考」の問題として扱ってきたものです。途中の数が抜けていて、最後に解った数から戻って考える問題です。こうした問題の場合、わからない数をやXに置き換えて考える方法を指導しました。解らない数を式に入れて、お話通りに式を立てる事は難しいことですが、何回か練習するうちにだいぶ身についてきました。低学年の問題では、わざわざXを使わなくてもできますが、将来の課題のために、幼児期の学習に関連づけて指導してきました。

10. 魔法の箱
  • 箱を通すと数が変化します。どんな魔法の箱か考えて、最後に出てくる数や、入れた数を考えて、空いているの中にその数を書き入れてください。
  • 1番下の問題は、連続して箱を通しますので、それぞれの箱がどんな数にかえてくれるかよく考えて、空いているの中に当てはまる数を入れましょう。

受験対策として行ってきた「魔法の箱」の問題を、数でやってみました。変化の法則性を導き出し、最後の数がいくつになって出てくるかを問う問題です。下の2問は逆思考になっていますので、ここで間違えた子が少し見られました。ばらクラスでやったことのある問題ですから、その時のことを思い出しながら取り組んでいました。

入学してまだ3カ月しかたっていない新1年生ですから、学校で習う算数は、やっとたし算やひき算の指導に入ったころだと思います。受験向けとはいえ、まともなやり方で学習してきた子どもたちは、その学習を土台に、上に示したような学習が可能です。早いことが良いことだとは思いませんが、きちんとした指導の上で積み上げれば、だれでも取り組み可能な力が育ちます。それだけでなく、本当に理解していないと式が立たない文章題に取り組ませることによって、計算だけできればよいという世の中全体の動きに「NO」を突き付けるためにも、この実践は継続していく意味があると思っています。幼小一貫授業とは、このように幼児期に学んだ内容を、どのように教科学習に繋げていくか。そこを真剣に考えてあげなくてはいけません。その繋ぎ方がうまく行けば、受験対策として行ってきた学習が大きな意味を持つのです。逆にいえば、そのようにつながっていく「学び方」を受験準備の学習においても、ぜひしてほしいと思います。受験は、幼児期における基礎教育の最大の動機付けだと思います。それならば、将来の教科学習の基礎になるよう、その内容と方法はまともな考え方でしっかり構築されるべきです。教え込みのペーパー主義では自ら考える力は育たず、受験が終われば全て忘れてしまう結果になりかねません。

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