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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

韓国での教師研修会

第379号 2013/3/8(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 2月24日から3日間、韓国を訪れ、幼稚園の先生方にKUNOメソッドの教授法について指導してきました。3月18日から始まる新年度の教育活動において、KUNOメソッドによる学習に年中・年長合わせて7,000名の子どもたちが取り組みます。その指導を担当するのは、専門学校を出てまだ現場経験の浅い若い教師たちです。この教師たちを対象に、幼児期における基礎教育の考え方と、KUNOメソッドの具体的な指導法を伝えてきました。どうすれば言葉の壁を越えて伝えることができるか。とっさに考えついたことは、細かい説明をするより、教師たちに生徒になってもらい、私の発問で考えたり、作業してもらうことが一番伝えやすいと思い、そのようにしました。予想通り、ひとつひとつの授業内容に対し関心を持ち、どこでどんな発問をすればよいのかも、理解してもらえたと思います。ステップ1の4回の内容について、かなり具体的に伝えてきたつもりですが、この調子でやると、私も頻繁に韓国に出向かなくてはならなくなりそうです。7,000名の幼児たちに継続して「KUNOメソッド」に取り組んでもらえるように、さまざまな教育援助をしていかなくてはならないと思います。言葉の壁を乗り越えて教育の中味が伝わることは、素晴らしいことだと思います。

この職員研修に先立ち、韓国の大学の先生と共著のかたちで出版する本の内容の打ち合わせを行いました。私が2006年に講談社から出版した「3歳からの「考える力」教育」で述べた考え方をベースに、韓国の教育の現状や子どもたちの理解の現状を踏まえて、主に現場の先生方に読んでもらう指導書の出版を目指しています。おそらく5月頃には完成するはずです。韓国では今年から教科書が改訂になるようで、特に算数科では、抽象化された数字の世界だけの学習ではなく、子どもたちの生活に根差した指導を通して、算数嫌いな子どもを生み出ださない算数教育を目指しているようです。アメリカで盛んに行われている「STORY TELLING」の形をとって、教科書は作られるようです。

昔から日本でも、「生活単元学習」か「系統学習」かの議論がありましたが、生活に根差した生活単元学習の方が、年齢が低い子どもたちの教育にとっては効果があるとされてきました。「STORY TELLING」の形を取った算数教育とはつまり、生活に根差した算数教育であり、数式に抽象化された数の世界だけで学ぶ算数よりも、子どもたちも興味を持って取り組んでくれるだろうと期待されています。

ところで、最近の小学校入試の問題を見ると、「話の内容理解」の中に数の問題が組み込まれていて、単に出てきた数を記憶するだけでなく、お話の進展に伴って数が変化し、その変化をとらえた問題が多数出題されています。例えば次のような問題です。

2009年度入試 雙葉小学校「話の内容理解」
 動物たちの住む動物村に駅ができました。今日はじめて汽車が駅にやってくることになっています。ウサギは、おばあちゃんのお家に行くために駅にやってきました。他の動物たちもみんな汽車に乗ろうと、たくさん駅に集まってきました。
汽車が到着しました。サルの車掌さんが、「間もなく発車いたします。お乗りの方は、並んでお乗りください」と言うと、動物たちは1列になって汽車に乗りこみました。
はじめに乗ってきたのはリスでした。「ワーイ!僕、1番前だ!」と言いました。その次にウサギが乗ってきて、リスのすぐ後ろに座りました。3番目にタヌキ、4番目にキツネが座り、1番後ろがヒツジです。みんな乗ってきた順番に、前から座りました。最後にクマが乗ってきましたが、もう座る場所がありませんでした。「僕の座るところがないよ!」と言うと、リスが「僕のところにきていいよ」と言ったので、クマは「ありがとう」と言って、リスの場所に行ってリスをひざの上に乗せて座りました。
汽車が発車しました。窓の外に真っ赤に色づいたモミジが見えました。最初の駅でヒツジが降りました。車掌さんが「汽車は少し停まります」と言ったので、みんなで降りて近くの川で遊ぶことにしました。ヒツジはモミジの葉っぱをたくさん拾って帰っていきました。しばらく遊んでいると、「発車しますから、早く乗ってください」と車掌さんの呼ぶ声がしました。みんな急いで汽車に乗りました。
次の駅でクマとリスが降りました。それから汽車はどんどん走り、終点の小鳥山の駅に着きました。小鳥山の駅で、残った汽車の中のお客さんは、みんな降りました。

問 : 終点の小鳥山で降りたお客さんは全部で何人ですか。その数だけリンゴのお部屋にをかいてください。

2010年度入試 聖心女子学院初等科「話の内容理解」
 あきちゃんは妹の花ちゃんのお誕生日のお祝いに、お母さんと一緒に花ちゃんの好きなハンバーグとポテトサラダとフルーツポンチを作ることにしました。
「ハンバーグには何を入れるの?」とあきちゃんが聞くと、お母さんは「ニンジン、玉ネギ、ひき肉、グリーンピースとトウモロコシ、牛乳とタマゴを入れるのよ」と教えてくれました。
あきちゃんがニンジンの泥を水で洗って落とし、それをお母さんがみじん切りにします。あきちゃんは小さくなったお野菜を見て「お母さんの手は魔法の手!どうしてこんなに小さくなっちゃったの!」と言うとお母さんは笑いました。お母さんはボールを出して、その中に切ったお野菜やひき肉などを入れました。あきちゃんはそれを混ぜてハンバーグの形に整えました。「何の形でもいい?」と聞くとお母さんは「好きな形でいいわよ」と言いました。
その後、お母さんはハンバーグをフライパンに入れて焼きはじめました。途中でお母さんがハンバーグをひっくり返すと、あきちゃんは「ひっくり返っちゃった!」と笑いました。

問 : 焼き上がったハンバーグを、4枚のお皿に2個ずつのせようとしましたが、1個足りませんでした。お母さんとあきちゃんはハンバーグを何個作ったのでしょうか。その数だけお日様のお部屋に青いをかいてください。

話の内容をしっかり理解し、その上で起こる数の変化を暗算できるかどうかが問われています。数式を導入する前に、こうした日常生活における数の変化に敏感になることが、数の世界をより身近なものにし、具体から抽象への橋渡しに役立つものと思います。算数における計算主義を打破するためにも、こうした発想の授業や教材開発が求められています。

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