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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

生活単元学習か系統学習か

第342号 2012/6/8(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 3月に共同で開園したソウル近郊の「ソフィア幼稚園」を、2カ月ぶりに訪問してきました。今回の訪問目的は、幼稚園内の一教室を「KUNOメソッド」による教育を実践するのにふさわしい環境づくりのために、教室設計を行うことでした。一般的に幼稚園の内装は、子どもたちに楽しい教室イメージを与えるために、相当工夫を凝らし飾り立てます。カラフルな色をふんだんに使って、時に遊園地と間違えるような感じさえ与えます。韓国の幼稚園は特にその傾向が強いように感じてきました。私は、遊びの空間としてはそれで良いと思いますが、集中して作業したり知的な課題に取り組むためには、余計な飾り立ては必要ないと考えています。つまり、簡単にいえば、主人公は子どもであり、その子どもの活動をどう目立たせるかという事が最優先です。子どもの身につけている洋服、使っている教具・・・そうしたものが簡素な教室のアクセントとなり、子どもの動き自体が前面に出て目に留まるのです。飾り立てた空間では時として、子どもの動きが消し去られてしまいます。それだけでなく、活動の目的に沿って空間をデザインすることも必要で、私は常に「教室は舞台、主人公は子ども」と言い続け、そのようなコンセプトで教室設計をしてきました。その同じ考え方を韓国の「ソフィア幼稚園」でも実行しようと、内装業者と打ち合わせしてきたわけです。

もう一つの目的は、「ソフィア幼稚園」をモデル幼稚園として、韓国全土の幼稚園に正規の授業として「KUNOメソッド」を取り入れてもらうために、どのような方法で広めるか、その方針を話し合ってきました。以前報告したように、韓国では今年3月から年長児の教育が無償になり、いわば義務教育化したようです。一方で、保護者の教育費負担を軽減するために、民間の教育機関、いわゆる「塾」を攻撃の対象にし、小学校以降の学校では放課後学校内に補習教室を設置するなどして、「塾」に通わなくてもきちんと学力が身につく方策を考えているとのことでした。

そうした流れの一方で、来年度から新しい教育カリキュラムが実施されるようで、教科書も全面改訂されるようです。特に、算数科の指導法は大きな変更があるようです。その背景には、算数嫌いな子どもたちが大勢いて、この問題をどう解決するかが大きな課題になっているようです。ある大学の数学科の教授に、こぐま会の「KUNOメソッド」の理念とカリキュラム、および実際の授業場面を見ていただいたところ、高い評価を頂きました。特に、体を使った活動、手の操作(試行錯誤)、ペーパー学習の連動が素晴らしいということでした。教授は、空間認識を育てる学習(位置表象)と図形教育との関連に、相当興味を持たれているようでした。

2000年度に「討論数学」という発想で教科書の改訂をした韓国が、算数嫌いな子どもたちをつくらないために、来年、より進んだ考え方で教科書を改訂しようとしているようです。その全貌はまだ明らかになっていないようですが、お話を聞く限り、日本でも昔から行われてきた教育方法の論争、つまり「生活単元学習」か「系統学習」かに似た議論が行われているようです。今回の改定では、生活単元学習的な要素の強いカリキュラムが登場するのではないかと感じました。日本でもこの論争は永遠の課題のように思いますが、AかBかではなく、それぞれのよい面を取り入れて行っているのが実情だろうと思います。しかし、日本でも「読み・書き・そろばん」の、そろばんの部分が強調され、算数が計算主義に陥っている現状を見ると、隣国の議論だと言ってすまされない面があるように思います。

学習の動機づけとしての「生活単元学習」のよさと、きちんとした道筋で算数の力を積み上げていこうとする「系統学習」のよさを認め合い、その統合した形としての教育方法論が編み出されれば、子どもたちにとっては学びやすい環境ができ上がっていくのではないかと思います。特に幼少期には、生活単元的要素を取り入れながら学びの系統性をどう保障するか、それが必要です。私たちが長年の実践を踏まえて開発した「KUNOメソッド」は、その期待に十分応えられるものだと確信しています。ペーパートレーニングだけに偏った日本の小学校受験教育は、こうした議論に照らしても異常なことであり、子どもたちの成長の芽を摘み取ってしまうことにもなりかねません。

今回、大学教授との話し合いの中で、「空間認識をきちんと育て、それにつながる図形教育をどうするかが、一番の課題だ」ということを確認しましたが、私も以前から、日本の小学校の貧弱な図形教育をどうするか、ということも大問題だと思ってきました。この点に関しては、実践を検証しながら、あらためてこのコラムで述べさせていただきます。

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