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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

入試速報(7) 「今年の入試総括」

第321号 2011/12/24(Sat)
こぐま会代表  久野 泰可

 12月18日に筑波大学附属小学校において「学科合格者」に対する抽選が終わり、これで首都圏の入試が一段落したことになります。同じ日、目黒区中小企業センターホールに300名余りの保護者の方々にお集まりいただき、「2012年度私立小学校入試結果報告会」を開催しました。9時半から12時まで2時間半に及ぶ報告会でした。今年度の入試全体の総括を私が行い、学校毎の入試内容を担当者が報告するという形で行いました。
冒頭30分ほど行った今年の入試総括については、大体次のような視点で報告させていただきました。

1. 震災後初めての入試で変化したことはあったのか
2. 志願者の減少に歯止めはかかったのか
3. 問題の傾向に変化はあったのか
4. 合否判定に関する変化は見られたか
5. 補欠合格者の動き
6. 間違った受験対策にならないように

3月11日の震災後初めて行われる試験が、合否判定や問題傾向、特に行動観察の内容と評価に少なからず影響したことは考えられます。入試前から私たちが注目していた、通学時間の問題や、母親が働いていて緊急時に学校に来るのが難しい家庭がどのように扱われたか・・・・この2点については今も調査中ですが、特に大きな影響はなかったと考えています。ただ、志願者はほとんどの学校で減少しています。名目上の倍率が下がっただけでなく、入試当日、相当の欠席者(併願できなくてどちらかをあきらめざるを得なかった結果がほとんどだと思う)がいたという報告を受けたことを踏まえると、実質上の倍率は相当下がっているはずです。また、補欠合格者を付け加えると実質3倍前後の学校もあったのではないかと思います。志願者側に、遠い学校を敬遠するという意味で震災の影響は少なからずあったかもしれません。経済的な理由や公立校の頑張り、そして、震災によってものの考え方が変化している現状を考えると、今後私立小学校の志願者が増えていくということはかなり厳しいと思います。また、昨年までは横ばいだった国立附属小学校の志願者も今年は軒並み大幅ダウンのようですので、志願者の減少は私立小学校だけの現象ではなくなってきているようです。定員割れをおこさず、学校の教育方針を理解していただけるご家庭に入学してほしいと願う学校側にとって、今後かなり厳しい入試にならざるを得ない事は容易に想像できます。いずれ大学のように、生徒集めのために学校側が何らかの働きかけを起こさないといけないような・・・・・、20年前にはとても考えられなかった事態になる可能性も否定できません。

ところで、問題の傾向に大きな変化はありませんが、ある学校で出された新しい形の問題が他校に波及するスピードが速まり、それが全体として「新傾向の問題」を形成しているように思います。領域別にみると次のような問題が良く出されています。

未測量関係推理(三者関係)、シーソーのつりあい
位置表象移動(すごろく・方眼上の移動・飛び石)
一対多対応とその応用、交換、数の増減、数のやり取り
図形図形構成(平面・立体)、線対称、重ね図形、回転図形
言語話の内容理解、一音一文字、しりとり
その他理科的常識、手先の巧緻性、指示製作

合否判定に関しては、私立小学校の特殊性から関係者が有利に働くことは否定できませんが、それでも子ども中心の実力主義であるという点は定着しています。これまでやや関係者が有利であると思われていた女子校も、今年はほぼ他校と同じ水準になったと思います。ただ、共学校の中でいくつかの学校が「関係者有利」であったと判断をせざるを得ないのは、子どもを送り出す側の私たちにとって「公平な入試」という観点で見れば、釈然としません。その意味で、中学校入試以降の選抜試験と比べ、小学校入試は特殊な試験といわざるをえません。合否判定の方法だけでなく、学力が高い順に合否が決まらない小学校入試をどう受け止めるか・・・・、40年間考え続けても結論が出ない入試であることには変わりありません。しかし、それこそが小学校入試だと割り切ってしまえば、その事実を隠さず、正確に伝えることこそが私たちの役目かもしれません。幼児を対象とした選抜試験において、「何が実力か」「何が公平な入試か」「そもそも学力という概念が当てはまるのかどうか」・・・・そう考えていくと、他の学年の入試と比較すること自体がナンセンス・・・という意見も聞こえてきそうです。こうあってほしい、こうあるべきだ・・・という想いと、現実の入試とのズレをまず正確に伝えることが大事かもしれません。

補欠合格者に関しては、最近発表そのものをしなかったり、発表しても補欠番号を付けなかったり・・・と、学校側が公になることに相当神経を使っている問題であることがわかります。今年も30名以上補欠合格を出したり、二次補欠の制度を採用したり、すでに25名以上繰り上げ合格があったり・・・・私たちも大方把握していますが、これを私たちの立場で公表することが良いことかどうか微妙な問題ですので、ここでは公表するのは控えます。学校側が外部の人間にあまり知られたくない情報を暴露するのが私たちの仕事ではありませんから・・・・・。大学が定員割れを起こす時代です。小学校も定員割れを起こして4月新学期をスタートするわけにはいきません。合格を出した生徒が他校に流れるのを防ぐために、学校側がいろいろな仕掛けを作っていることも事実です。また、それが合否判定に影響していることも考えられます。入試を取り巻くさまざまな状況をしっかり把握し、正しい判断をしていくことは保護者の責任でもあるのです。

情報も公開されず、教科書もない入試。だからこそいろいろなうわさが飛び交い、業者側の思惑で行われる「間違った受験対策」を信じて疑わず、その結果、子どものまともな成長を阻害していることがどれだけ多いことでしょう。40年間この仕事に携わり、いつも危惧していることは、「小学校入試は特殊な訓練が必要である」と思いこまされ、大事な幼児期の教育を間違った考えで行い、親子関係の悪化のみならず、「受験対策」という名のもとに子どもの成長の芽を摘みとってしまっているという現実です。教室での指導法、教師の子どもへの対応など、「おかしい」と感じつつ、「特別な訓練だから仕方ない」とあきらめてしまっていませんか。小学校入試はそんな教育の原理を踏み外した訓練など求めていません。まともな家庭教育と、まともな基礎教育が求められているのです。人間としての普通の感覚で「おかしい」と思ったら、その指導法は「おかしい」と断定してまず間違いありません。

入試1年前から、過去問を教材としてペーパーのみの訓練をしているような指導は、子どもが物事をどのように理解していくかの最低限の専門性をも持ち合わせていない、素人が行う指導以外の何ものでもありません。入試で問われる事もない難しい問題を次から次に与え、親も子も不安のどん底に落としこむような「霊感商法」的教育は、あってはならないのです。その意味で、保護者の責任において「正確な情報」を持つことはとても大事なことです。他人任せにしないで、間違った受験対策にならないよう、子どもを守っていかなくてはなりません。

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