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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

系統性を重んじた指導を

第304号 2011/8/5(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 夏休みに行う講習会の中で子どもたちに一番人気のある講座は、お弁当持参の4時間講習会です。普段は1週間に一度の通塾ですが、5日間連続で通うこの講習会では、お弁当の時間も含め、踊りあり、劇遊びあり・・・と勉強以外の要素がたくさん盛り込まれており、これまでとは違った子ども同士の関係ができていきます。それが子どもたちにとってとても新鮮のようです。4日目・5日目になると新しい友だちもでき、デスクワークも生き生きとした表情で意欲的に取り組んでいます。教える教師にとっても、普段見られない子どもの様子を垣間見ることができ、学習面における問題点が何に起因しているかもわかり、進路指導にも大変役立っています。

夏季講習会の内容は昨年大幅に改訂し、学習面では今の入試で求められている「考える力」を徹底して身につけるようカリキュラムを再編成しました。やはりペーパーだけのトレーニングには限界がありますので、事物やカードを使った指導も取り入れながら進めています。午後の授業では、最終日に発表する劇の準備を兼ね、役作りやお面作り、セリフの暗唱等を通して、入試で求められているさまざまな能力を育てるプログラムになっています。今子どもたちの間ではやっている「マルモリ体操」もみんなで行い、気分転換を図りながら、長時間の講習会に集中力を持続させながら取り組んでいます。

3日目に山手線ゲームと称して行った「形の変化・移動」は、恵比寿駅からスタートして、渋谷・原宿・代々木・・・と形を変化させながら一つずつ駅を移動するゲームですが、その内容は「三角パズルの変化」や「つみ木の変化」といった図形的要素の強い学習です。5枚の三角パズルでスタート駅の形を作り、次の駅の形はその5枚のうちの1枚を動かしてつくります。その次の駅に行くにはどこをどう動かせば良いのかを考えさせるところに、図形的学習の意味を持たせています。具体的な内容は次の通りです。

三角パズルの変化

つみ木の変化

いくつかの駅を回ってまた元の駅に戻るように作られた見本を見ながら、できるだけすばやく判断し形を変化させていくものです。5枚だけの三角パズルとはいえ、輪郭線だけの見本を見る限り、1枚動かしただけでも形が相当変化するものです。変化したところと変化しないところを即座に判断し、移動させる1枚を判断しなくてはなりません。同じように8個のつみ木を1個ずつ動かし、形を変化させる課題も行いましたが、つみ木の移動の方が子どもたちにとっては易しいようです。1個1個の輪郭がはっきりしているためだろうと思いますが、いずれにしてもこの2つの課題は、個人差が大きく見られる課題です。前の駅の形と次の駅の形を良く観察し、変化した部分と変化しない部分とを見極める図形的センスが求められています。全体と部分の変化を見極める能力は、物事を比較する際に求められる大事な能力ですが、変化に対して敏感になる眼を養うことは、考える力を育成するプログラムの中ではとても大切なトレーニングです。

こうした試行錯誤の学習を終えた後、次に用意した学習は次のような課題です。


左のつみ木を右のかたちにするには、いくつつみ木を動かせばよいですか?
その数だけ下のお部屋の中にを描いてください。

この問題は相当難しい問題ですが、これに類した問題が実際の入試でも出されています。この6問全てを正確にやりこなす子どもは、今の段階でもまだ半分以下ですが、変化したものと変化しないものを判別するトレーニングにはふさわしい問題です。

この課題は、次のような問題が実際の入試で出され、その問題への取り組みで苦労する子どもたちを見たことがきっかけとなり、どのようなものの見方を身につければ解決するのかを考えた結果、取り入れた学習活動です。


上のお部屋のつみ木から、2個動かしてできる形を下から探して、をつけてください。

幼児期の基礎教育を考えた時、最終的に目指す課題にすぐに取り組ませるのではなく、そこで必要とされる「ものの見方・考え方」をもう少しやさしく単純化して子ども自身に取り組ませる、いわば試行錯誤させる時間が必要です。入試対策として過去問にすぐに取り組ませることの危険は、こうした手続きを抜きに行うからです。仮にその課題が最終目標であるとしても、そこに至るプロセスを大人が準備してあげなければ、ペーパーで理解できない子どもには解き方を機械的に教え込むしか方法がないのです。しかし、そんな方法で考える力が身につくはずはありません。ですから、私が長年言い続けてきたように、何の基礎的なトレーニングもせず、また何の系統性もなく過去問を解かせようとする今の受験対策は、実は教える教師側に子どもの思考の成長過程を分析する能力がないということを証明しているにすぎません。受験対策といえども、教育の原理原則を踏まえた指導をしなければ、受験対策の学習が将来の子どもの知的成長を阻害する結果になってしまうという怖さがあるということを、指導者は肝に銘じる必要があります。過去に経験したように、小学校受験の準備教育が子どもたちの心の健康を害する結果にならないよう、教育者として最低限の原則を守る義務があります。

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