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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

今子どもたちが直面する壁

第302号 2011/7/22(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 地震の影響で一週遅れて始まった夏季講座には、毎日大勢の子どもたちが元気に通ってきています。受験クラスは、夏休み前までにすべての単元学習を終え、これまでの学習を踏まえて過去問や新しいタイプの問題に取り組んでいます。初見の問題にぶつかった時、その問題にどれだけ粘り強く取り組めるかどうかは、これまでの学習がどのようになされ、どれだけ深く理解できているかによって決まります。テスト終了後、「わかっていたはずなのに・・・」と相談にみえる方の間違いの原因は、基本を理解させず形式的に教え込んでいた結果によるものがほとんどです。

この時期に時間をかけて行わなくてはならないのは、たくさんのペーパーをこなすことではありません。一枚一枚のペーパーを大事にし、どこまで深く理解しているかを一つ一つ点検しながら学習を進めていくことです。答えが合っていても間違っていても、なぜそうなったのかを問うことが大事です。答えの根拠を説明させた時、「先生がそう教えてくれたから・・・」とか「お母さんが教えてくれたから・・・」では困ります。教えられた結果として、子どもなりに子どもの言葉で説明できなければ本当にわかった事にはなりません。この夏に、答えの根拠や考えのプロセスを言葉で表現させる努力をしておかないと、工夫された初見の問題にはほとんど手が出ないでしょう。

最近の入試問題をペーパー問題に限って見ていくと、新しい流れが見えてきます。

A)数の問題がやや少なくなった
B)その分図形の問題が増えたが、その図形の問題も、従来のように図形構成・図形分割中心ではなく、対称図形や重ね図形に関連した問題が多い
C)少なくなった数の問題の中でも、「一対多対応」(かけ算の基礎)の応用問題が実に多く出されている
D)かなり細かいことを問う「常識問題」が増えている
E)聞く力を重視する問題が多い。特に長いお話の中で、すべての領域の問題を解いていく問題は、今後も増えていくことが予想される

この夏は、こうした新しい傾向を踏まえた学習をする必要があります。出題される6~7枚のペーパーを見ていくと、必ず易しい問題と難しい問題が混在しています。難関校であっても易しい常識問題が出されたり、基本問題が多い学校でもかなり論理が必要な問題が出たり・・・とさまざまです。一見易しそうでも、子どもにとって間違い易い問題があるということも知っておいてください。同じペーパーでありながら、「考える力」が必要な場合と、指示通りの作業をしっかり行って答えを探していく場合と、大きく2つのタイプがあります。その結果、当然難しい論理が求められる問題に力を注ぐことになりますが、最近の子どもたちの様子を見て感じるのは、論理が必要とされる難しい問題は解けても、作業を通して答えを導き出していくような単純な問題でミスが目立ちます。例えば「分類計数」「迷路を使った数の構成」「すごろく」「飛び石移動」などの場合、作業がうまくいかず答えまで到達しないケースが良く見られます。約束に基づいた作業を時間内に行い、答えを導き出すというようなタイプの問題が今後も増えていくのではないかと思います。論理的思考力は必要としなくても、粘り強く作業しなくては答えが出てこない問題でミスをしたのではいけません。問題用紙をじっと見つめて答えを出そうとするのではなく、ともかく自分で作業をして答えを見つけ出すトレーニングが必要です。逆に言えば、どんな作業をすれば答えに到達するのかを判断する能力が必要だということです。

最近私たちは小学校低学年の授業等を通して、改めて「試行錯誤力」を身につけることの大切さを再認識していますが、これまで出された問題をそうした眼で見ていくと、確かに試行錯誤力をみる問題が多く、学校側の出題意図がよく伝わってきます。最後まであきらめず問題に取り組む姿勢は、手先の巧緻性や行動観察などでも評価の観点に入っているはずです。体を使い、手を使って物事に働きかけ、試行錯誤して答えを導き出すプロセスが大事であることは「事物教育」の基本ですが、ペーパーで問われる最近の入試問題の中にも、「作業」を通して物事に取り組む姿勢や集中力を見ようとしている問題が多く見られます。

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