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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

新指導要領に込めた学力重視の想い

第286号 2011/4/1(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 2年間の移行措置を終え、新しい指導要領での学習がこの4月から始まります。ゆとり教育で先送りした内容を再び元に戻したり、削除してしまった学習課題をまた復活させたりと、文科省も思い切った改革をしました。資料によれば、小学校1年から6年までの総授業時間数は、平成20年度と比べると23年度は278時間も増えています。この中には5年生以降行う英語の時間(約70時間)も含まれています。科目別の授業時間数を見ると、明らかに文科省の意図が見えてきます。国語は84時間増、算数は142時間増、理科は55時間増と国語・算数・理科に力を入れていることが分かります。その半面、「総合的な学習の時間」が430時間から280時間と大幅に減少しています。こうした数字から見えてくるのは、明らかに今の子どもたちに欠けている「論理的思考力」を育てなくてはいけないという考え方です。それは、学習時間数の増加だけでなく、教科の指導内容にまで踏み込んで言及しているところを見ても明らかです。例えば、考える力が強く求められる「算数科」の内容変更を見るとそれが一番よくわかります。

算数は、従来から「A 数と計算」「B 量と測定」「C 図形」「D 数量関係」の4本柱で指導内容が構成されていました。この点については変わりません。しかし今回の指導要領では、次のような変化が見られます。

  1. ゆとり教育で先送りした課題を元の学年に戻したり、従来より早く学習するようにしました。例えば、新しい指導要領で3年に学習する「小数・分数の加減」は、4年や5年に先送りしていたものを戻しています。また、4年で学ぶ図形課題(並行・垂直・平行四辺形・ひし形・台形・立方体・直方体)も5~6年から戻しています。また、中学校に先送りした、縮図・拡大図、対称な図形などは、6年で復活しています。

  2. 難しいという理由で、学習対象から削除したものをまた復活させています。例えば、3年の4位数の加減や3位数×2位数、4年生で学ぶ面積の単位である「a・ha」、また、5年生で学ぶひし形や台形の面積など、探してみるときりがありません。いかに、ゆとり教育で大事な内容を削除したかがわかります。

  3. 算数を計算至上主義にしないように「考える力」の育成を重視しています。その一つに、数量関係の中に「式による表現」という項目が入りました。従来は、数と計算の中で学習するとされていた内容ですが、わざわざ数量関係の中に登場させているのは、計算は強いけれど文章題になるとお手上げ・・・という計算中心の現状に「NO」を突き付けたものだと思います。この点こそ我々が20年以上も前から主張してきたことで、何で今頃・・・という想いを強く持たざるを得ません。それだけ、「計算はできるけれど、文章題になるとできない」という現実が深刻なのでしょう。私たちが現場で子どもたちを指導して実感してきた「応用力のなさ」を顧みず、あくまで算数の基本は計算だと主張し、さまざまな学習法を編み出してきた人たちにも大きな責任があるはずです。「読み書きそろばん」に象徴される昔からの学力観を変えていかないと、この国の子どもたちの「考える力」はいっこうに解決しません。「計算さえできれば、算数は大丈夫だ」という錯覚を保護者や子どもに植え付ける結果になった計算至上主義、その学習法を編み出した学者・現場指導者にも大きな責任があります。

従来の指導では、計算練習をし、習得した計算法を文章題にあてはめて使えるようにすることが目標でした。計算練習の後の文章題練習ですから、文章の内容を十分理解しなくても、ただそこに出てくる数字を拾って練習した計算を使えばできてしまうようなレベルの問題でした。しかし、そんな学習をしていたのでは4年生以降始まる論理が求められるさまざまな文章題を解いていくことはできません。考えの道筋に沿って四則演算が使えるようになるには、抽象化された計算の過程そのものを常に具体と結びつけながらトレーニングしていくことが必要です。ですから私たちは、「式による表現」だけでは不十分だと考えています。例えば、ある文章を読んで「6×9」という式がたてられるだけではなく、「6×9」の式を見て話をつくらせること(作問)が重要だと考えています。具体的な場面を式として抽象化するだけでなく、抽象化された式を見て具体的場面をイメージできるかどうかも大事です。その相互作用の中で数学的な思考は磨かれていくはずです。

先日、この4月に入学を迎える新1年生の最後の授業で、「9+3」「9-3」「9×3」「9÷3」の4つの話をつくってもらう学習をしました。予想通り「9×3」の話をつくれない子がたくさん見られました。文章を読んで「9×3」が立式できても「9×3」の話がつくれないということは、本当に「かけ算の意味」がわかっていないと考えた方がよいかもしれません。4月新学期から始まる新指導要領での学習で、こうした問題が解決していくことを切に望んでいます。

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