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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

幼小一貫教育を考える(4) なぜ事物教育か

第282号 2011/2/25(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 教科前基礎教育の方法として、こぐま会では「事物教育」を重視してきました。幼児期の基礎教育においては、「教科書と、ノートと、黒板があればそれで十分」という小学校以降当たり前になっている教育法を変えなくてはなりません。例えば遊びの教育的意味を考えながらプログラムを組むといった発想です。幼児期の遊びがとても大事だという理由は2つあります。一つは、楽しく集中していること。またもう一つは、事物に働きかけることを通して遊びを発展させているという事実です。幼児にとって大切な遊びの役割を、教育方法としてどう活用するか。そのためにはまず、授業は楽しくなくてはなりません。知的好奇心を刺激するような場の設定が必要です。集中しなくては教育効果は上がりません。またもう一つ大事な点は、物事に働きかけることを通して幼児の認識能力が高まっていくという、認識心理学の成果を活かすことです。ルソーの考え方から学び、ピアジェがただ一つだけ教育方法として示唆した「事物への働きかけ」を、幼児期における基礎教育の中心に据えること・・・・・これが事物教育の理論的根拠です。物事に触れ、試行錯誤を繰り返す中で、ものとものとの関係づけを子ども自ら学ぶこと・・・そこに教育的意味を見つけ出し、教育方法の中心に据えることが大事です。一方的な教え込みでは決して幼児の思考力を育てることはできないということを、指導者はしっかり受け止めておかなくてはなりません。

私たちはこの30年間、一貫して「事物教育」を主張してきました。特に小学校の受験対策として広く行われているペーパーだけを使った過去問トレーニングについて、「子どもの思考の芽を摘み取ってしまう」と批判し続けてきました。その結果、今では事物を使った教育が小学校受験のための対策としても有効であることを誰もが認めるようになり、小学校受験対策の主流になっています。ここまで来るのにどれだけの時間を必要としたことか。やっと、こぐま会の方法、すなわち「事物教育」が正当に評価されてきたという想いです。生活に身近なものを学習の素材に使うことによって生活や遊びをイメージしやすくなり、学習の動機づけがスムーズにいくこと、また、意図的に作られた教具に働きかけ操作することによって、「考える力」を効果的に高めることができるようになるはずです。

しかし、具体物なら何でも良いというわけではありません。授業意図に即して、一番効果的な事物を選ぶ眼が必要です。私たちは1時間半の授業の中で、ある一つの課題に対し、大体3つの方法で授業を構成しています。すなわち、体を使った経験・手を使った事物操作・そして最後にワークブックを使ったトレーニングというように、子どもたちが物事を理解していく道筋に沿って学習内容を系統化しています。集団活動の良さを取り入れながら、個別作業を保証するために、そうした3つの違ったアプローチをすることによって、本当に身に付いた「考える力」の育成を目指してきました。この方法は受験があるなしに関係なく、幼児期における基礎教育の方法として、あらゆる幼児教育機関で取り上げられていくことを願っています。

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