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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

基礎の積み上げが軽視されている

第272号 2010/12/10(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 11月からスタートしたばらクラス(新年長児)の授業もすでに5回を終え、今週で「ステップ1」の授業が終了します。年明けからは、基本クラスに連動した「1月開講 入試対策クラス」が始まります。来秋の入試に向け、家庭学習にも力が入ってきました。それに伴い、さまざまな教育相談が寄せられています。学校選択の在り方、家庭学習の進め方、具体的な問題の教え方等、皆さん本当に熱心に取り組んでいます。ただ一方で、この時期から「暴走」が始まるケースもこれまでたくさん見てきました。「暴走」といったのは、子どもの理解の現状や教科の系統性を無視し、ペーパーのみの「過去問」トレーニングに取り組むケースです。過去問は基礎がしっかりできてから取り組むべき課題であって、今からすべき課題ではありません。段階を踏まえない教育は、百害あって一利なしです。結局子どもの伸びる芽・意欲を摘み取ってしまうことになるからです。こうしてつぶされていった子をどれだけたくさん見てきたことか。教科書がない受験であることの弊害がはっきり表れています。何をどのように学習していけばよいのか。どうすれば過去問が解ける力が身についていくのか・・・そのプロセスを指導者自身が理解していないのが現状でしょう。だからこそ、手っ取り早い「過去問」をペーパーでトレーニングすることになるのです。高い月謝を取って行われている受験準備の教育は、ほとんどがこのパターンです。そして、そこで使われている教具・教材が、指導者自身が授業意図に即して独自に作成したものではなく、こぐま会が家庭学習用に出版している教具やテキストなのです。コストをかけない安上がりの教育は、結局指導者自身が理解していない借り物の教育であり、だからこそ、テキストもその作成意図を全く無視した使い方をしているのです。

私たちが教科前基礎教育の理念にそって内容を考え、事物教育を中心とした方法で実践してきているのは、単に受験対策のためだけでなく、幼児期の思考力を育てるためには、それが子どもの発達にあった一番良い方法だと考えているからです。「考える力」は、最初からペーパーを使ったトレーニングでは育てることはできません。物事に触れ、働きかけ、試行錯誤を繰り返す中で物事の関係を知り、操作し、そうしたことを通して論理的思考力の基礎を身につけていくのです。この基礎がまだできていない段階で過去問トレーニングを行ったらどうなるのでしょう。解き方を覚えこみ、対応するだけで精一杯です。答えの根拠を求められても説明できないのです。そんなやり方では一番大事な「考える力」を育てることはできません。

結果が問われる入試においても、本来ならば基礎をしっかり固め、その上に応用力を身につけてから過去問トレーニングに入るのが常道です。しかし、教科書もなく、基礎も応用もわからない小学校入試においては、「過去問」トレーニングが手っ取り早いためか、1年も前の時期から過去問に取り組み、繰り返しトレーニングすることが入試対策だと思いこまされてしまっているのです。そんなやり方で子どもの思考力を育てることはできません。

今年の入試問題は基本問題に戻ったようです。しかし、基本だからといって、決して簡単なものだけではありません。本当に理解し、答えの根拠を自ら説明できるまでには相当の時間が必要です。入試においてはどちらかというと、易しすぎるからといって無視されがちな基礎段階の学習をしっかり積み上げ、問題がどのように変化しても対応できるだけの力を育てなくてはなりません。入試問題が基本に戻ったということは、学校側もそうした思考の基本が大事だと考えているからにほかなりません。基本問題への回帰が今年だけなのか、それとも今後長く続くのかは、もう少し時間をかけてみないとわかりませんが、学校側の「本当に身に付いた学力ですか?」というメッセージであるとすれば、真剣に受け止めなくてはなりません。幼児期における受験勉強の在り方が、厳しく問われる時代になってきたように思います。

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