ページ内を移動するためのリンクです
MENU
ここから本文です
週刊こぐま通信
「室長のコラム」

幼小一貫「ひまわりクラブ」の授業を通して教えられること

第264号 2010/10/15(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 小学校受験のために学習してきたことを教科学習にどうつなげるか・・・という目標を掲げてスタートした「ひまわりクラブ」も、早いもので70回の授業を終え、今週から第8期の授業に入りました。ひまわりクラブは、先に進むことを目標にしたクラスではありません。常に幼児期に学習した内容と関連付け、それぞれの学年で求められる計算能力と論理数学的思考力を育成するために、子どもたちの理解度を常に見ながら次回の内容を考える、という方法で進んできました。

「幼児期に系統的に学習してきた子どもだからこそできる内容と方法があるのではないか」そんな想いでこの1年半実践してきました。予想どおりにできたこと、できなかったことなど、実践者である私自身が子どもたちからたくさんのことを教えられました。2年生の2学期ですから、学校ではかけ算九九の練習が終わるころだと思いますが、「ひまわりクラブ」ではもう少し進んだ内容を学習してきましたので、下記のテストでそれを確認しました。

ひまわりクラブ第70回 総まとめのテスト
1. わり算・かけ算の筆算
2. 大きな数
3. 少数
4. 三角形と四角形の作図
5. いろいろな四角形
6. 角度
7. 文章題
8. 文章題
9. 作問

7・8・9の具体的な問題は以下の通りです
【7.文章題】
- 解答 -
【8.文章題】
- 解答 -
【9.作問】
- 解答例 -

平均点は70.4点、最高点は94点ですから、一応目標は達成できたと思っていますが、一人一人の子どもの観点に立てばまだまだ不十分な点がありますので、それを個別の学習で解決しながら、次の課題に進もうと考えています。

このひまわりクラブを始めたきっかけはいろいろありますが、ともかく現在の「算数教育」が計算至上主義に流れ、計算さえできればよいという考え方が根強く残っており、「計算はできるけれど、文章題になるとお手上げ」といった状況をなんとか変えなくてはだめだと感じたことです。幸い、幼児期に具体物やカードを使った学習を繰り返し、幼児でありながら、かけ算・わり算の考え方の基礎を具体的な場面に即して学んでいる、そうした幼児期の学習で身につけた数学的センスをどう計算に結び付けていくか。計算指導から入るのではなく、生活の中で起こる数的関係を考えさせながら、四則演算の世界にどう導いていけるのか。従来の算数教育の指導の仕方を逆転させ、計算式という抽象から文章題という具体に降りるのでなく、生活のひとコマひとコマの数の関係(具体)から数式に導くことによって、計算式の持つ意味を常に考えさせながら、計算するということができるのではないかと考えています。現在の文科省の指導要領に沿って考えれば、たし算・ひき算は1年生、かけ算は2年生、そして、わり算は3年生で指導することになっていますが、3年間かけて四則演算を学ぶ根拠はいったい何なのか。そう考えてみると根拠は見当たりません。計算を易しいところから難しいものへという流れで指導するということが根拠のようにも思いますが、生活している事実や、文章題で表現される具体的な世界は、子どもたちはすでに幼児期の段階で経験していることです。生活行為をつぶさに分析すれば、かけ算的操作もわり算的操作も、誰にも指導されることなく、必要に応じて「数の自己教育」として行っているのです。具体的な生活行為を数的な関係で見ていく時、1年生の段階では、たし算・ひき算的な世界でしか見れず、3年生になって初めて四則演算すべての物の見方ができるような仕組みが、はたして文章題につながる数学的思考力を育てることになるのかどうか・・・はなはだ疑問です。

「ひまわりクラブ」では、幼児期の学習につなげる形で、かけ算もわり算も、1年生に入学するまでに(年長の3月までに)数式の持つ意味や答えの出し方も含め指導し、基本的な計算をすべて身につけさせました。しかし、それは数式の持つ意味を何も理解しないで計算だけを訓練する方法ではありません。数式から現実を眺めるのではなく、生活行為における数関係を踏まえ、それを数式にまとめ上げていくという意味での理解がすべての前提です。早い段階でと言ったのは、少なくとも1年生が終了するまでの間に、かけ算的な発想やわり算的な発想を、簡単な計算式も含めて理解しておくことに大きな意味があると考えているからです。そのことによって、子どもたちが現実の生活における「ものとものとの関係」を見る眼が違ってくるはずですし、計算式であらわされた世界を、具体的な事象と結びつけることが早い段階で容易になっていくのではないかと考えています。

最近、子どもたちの中にインド式のかけ算を暗唱している子がいて、九九の範囲をはるかに超えたかけ算を口ずさんでいますが、そうした子に「4×3のお話をつくって」と言っても無言のままです。「3×4」と「4×3」は答えは同じだけどどう違うの・・・と尋ねても、何を聞かれているのかさえ理解できないようです。これが、今の計算至上主義を象徴的に表しています。かけ算の考え方が説明できないで九九を覚えても、インド式かけ算を暗唱できても、文章題で一番大事な「立式」はできません。そこに、計算はできても文章題になると・・・という話が出てくるのです。受験を経験した子が小学校に入ると、学習内容がやさしすぎて勉強に興味を持たなくなるという話もよく聞きます。そうであるなら、幼児期の学習(たとえそれが受験対策であったとしても)につなげた指導が必要であるし、それを幼小一貫教育という観点でとらえれば、受験結果に関係なく、それまでの学習がどんなに意味のあった学習なのかが理解できるはずです。そもそも今の教科書は、幼児期にどんな経験や学習をしたかという前提なしで考えられた教科書です。ですから、最近「幼小一貫教育」の必要性を感じた自治体が、小学校の先生を幼稚園や保育園に派遣して、小学校1年生の最初に学ぶやさしい計算を年長児に指導したらどうか、という全くナンセンスな方針を打ち出しているのです。幼児の生活や発達に見合った教育課程を何も考えず、1年生で学ぶ内容を少し早めておろせばいいだろうという発想では、日本の子どもたちの基礎学力を育成することなど到底できません。遠山啓氏が提唱した「教科前基礎教育」の考え方を、今こそ関係者は受け止めるべきです。

ところで、ひまわりクラブの1年半の実践で得たもうひとつの成果は、現在の教育が「個別化」していく流れの中で、集団授業の持つ意味を何とか復活させたいという想いから、授業形式をいろいろ工夫し、新たな挑戦をしてきたことです。学校の進度より先の学習をしているという現実の中で、ますます開いていく理解度の個人差をどう解決するかいうことと、文章題で必要とされる立式の言語化をどうトレーニングするかということを考えた結果、要請されたことでもあります。今回試みた授業方式とは、小グループで議論し、ひとつの答えに導き、グループごとに発表させるというものです。特に文章題への取り組みにおいて、従来から行っている2~3人の生徒に前に出てもらって板書することに付け加え、3人のグループを作り、集団で考えさせ、その結果をグループごとに発表させるというものです。最初のうち(1年前半)は、話し合いそのものが成り立たない時期もありましたが、最近(2年前半)では、活発な議論が交わされ、自分の考えを相手に伝える術もだいぶ上達したようです。そうした中で、自分の論理に欠けている点を指摘されて納得したり・・・という光景もしばしばみられます。

結論は言えるけれど、考えのプロセスは話せない

と言われる今の子どもたちが抱えている問題点を、こうしたグループ学習を通して少しでも解決できれば・・・と考え実行してきました。難しい問題になればなるほど子どもたちの議論は白熱してきます。決して目新しい方法ではありませんが、「個別授業」の流れにストップをかけ、昔からある「集団授業」「グループ学習」の良さをもう一度復活させたいと考えています。

PAGE TOP