ページ内を移動するためのリンクです
MENU
ここから本文です
週刊こぐま通信
「室長のコラム」

夏の学習課題(5) 「なぜ間違えたのか」にこだわること

第254号 2010/7/30(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 毎日暑い日が続きますが、子どもたちは元気に教室に通い、お弁当持参の4時間講習会で過去問に挑戦しています。応用段階の学習を終えたこの夏は、論理的思考力が求められる難しい過去問に挑戦する最適な時期です。2~3カ月前までは決して取り組めなかった課題に黙々と向かう子どもの姿に、確かな学力の定着を感じます。

論理的思考力が求められる難しい問題を出せば出すほど、基礎が本当に身についているかどうかがはっきりしてきます。自分で考えず、教え込まれた解き方では決して難問は解けません。この時期になって、それぞれの領域の課題が理解できないという子はほとんどいません。しかし、ある課題をやらせると、がもらえる子、の子、×の子と分かれてしまいます。なぜでしょう。その背景を探ると、がもらえない子の傾向がはっきりしてきます。

(1) 問題の意図が理解できない
(2) 意図は理解できたが、どのような作業で答えを導きだしたらよいかが即断できない
(3) 複合問題の場合、途中まで答えが導き出せても、もう一歩のところで止まってしまう
(4) 答えが出ても、指示通りの答え方ができない。(なのか、なのか。赤なのか青なのか。どこに記せばよいのか等)

こうした原因が複合され、誤答になってしまうわけです。子どもが取り組んだひとつひとつの問題に対し、いったいどこで間違えているのかを明らかにし、その間違いにこだわり続け、それを乗り越えるトレーニングを積む、・・・・この繰り返ししか解決する方法はありません。この地道な努力をしないで、結果だけを問題にし、教え込んでいく学習法では、子どもの思考力を正しく育てることはできません。特に私がこだわる(3)の視点については、集団で授業をしていくと個々の理解度が手に取るように分かり、何が欠けているのかがよくわかります。実は多くの子どもたちが、この夏の時期に「あと一歩で解ける」現実を抱えているのです。

夏季講習会4日目に行った「銀行ゲーム」は毎年行う課題ですが、子どもも集中して取り組む楽しい課題です。

  • クマのコイン1枚でウサギのコイン2枚と交換できる
  • ウサギのコイン1枚でカメのコイン3枚と交換できる
 上記の約束をふまえた後で、いろいろな交換をする。
例:(1) クマのコイン3枚でウサギのコイン何枚と交換できるか
(2) カメのコイン9枚でウサギのコイン何枚と交換できるか
(3) クマのコイン2枚でカメのコイン何枚と交換できるか

授業はこんな調子で進んでいきます。

「みんな銀行って知っている?」「知ってる。だってお母さんと行ったことあるから。」
「銀行って、何を売っているの?」「お金。」
「えっ。お金?」「違うよ。お金を預けたり、おろしたりするの。」
「今日はみんなに銀行のお姉さんになれるかどうか、テストしてみるね。」
「銀行のお姉さんって、お金の計算間違えるとだめだから、がんばってね。」
「じゃあ、これから先生の出す問題に正しく答えてね。」「はーい。」
「これから、こぐまの先生が銀行に行くから、お願いしたことができる時は、『いいですよー』と言ってね。できないときは、『ダメですよー』って言ってね。」

こうして、一対多対応の問題や包含除の問題を繰り返しながら、最後の難しい問題にのぞみます。

「すみませーん。くまのコイン2枚を、カメのコインに変えてほしいんですけど」と問いかけると「いいですよー」と「だめですよー」が交錯して聞こえてきます。
「だめですよー」と答えた子に「どうしてだめなの」と聞くと、「だって約束していないから」と答えます。確かに約束はしてありません。「そうだね、約束していないね」そこで「いいですよー」と答えた子に「お友だちがダメだよと言っているけど、本当にできるの?」と聞くと、「できるよ。だって、クマのコインをウサギのコインに変えるでしょ。それをカメのコインに変えればいいの」と、交換の考え方を説明してくれます。

こうして繰り返し練習していくと、「すみませーん。カメのコイン6枚を、クマのコインに変えてほしいんですけど」の問いかけにも、ほとんど全員の子が「いいですよー」と答えてくれるようになります。

今年はこの問題ともう1つ、一昨年雙葉小学校で出された次の問題にも取り組ませました。

 動物村のパン屋さんは次のようにパンを取り替えてくれる。
  • メロンパン1個はドーナツ2個と交換できる
  • 食パン1斤はメロンパン2個と交換できる
  • ハンバーガー1個はメロンパン1個とドーナツ1個と交換できる
 問 : ハンバーガー4個は、食パン何斤と交換できるか
解答 : 3斤

この問題がなぜ難しいのか、それははっきりしています。過去に雙葉小学校で出された問題も含め、これまでの交換の問題は、原則として1種類のものと他の1種類のものを交換する約束でした。銀行ゲームのように、クマのコインはウサギのコインと、ウサギのコインはカメのコインと・・・・というように、数の関係はいろいろあるとしても、1種類のものが2種類のものと交換する約束はどこにもなかったはずです。ですから、昨年出されたこの雙葉小学校の問題に、この夏季講習会で初めて取り組んだ子の中で1回で正解できたのは、16名中2人しかいませんでした。どこが難しいのか、どこで間違えたのか。それぞれが出した答えの根拠を探ろうと、答え合わせの時、子どもたちにどうしてそのような答えになったのか問いかけてみました。すると、こちらがびっくりするほどさまざまな答えが返ってきました。

この問題の解き方は2通りあります。1つ目の方法は、まずハンバーガー4個をメロンパン4個とドーナツ4個に変え、その上で、メロンパン4個を食パン2斤に変えます。またドーナツ4個をメロンパン2個に変え、そのメロンパン2個を食パン1斤に変え、合計で3斤ということになります。2つ目は、最初にドーナツ4個をメロンパン2個に変え、メロンパン6個を食パン3斤に変えるという方法です。子どもたちにとっては前者のような考え方で解く子が多いようです。それは、間違いの原因を見ていくとよく分かります。では、子どもたちは何斤と答えたのでしょうか。

16名のうち、「8」と答えた子が3名、「4」と答えた子が6名、「3」と答えた子が2名、「2」と答えた子が2名、無回答が3名でした。では、なぜそのような答えになったのか、子どもとやりとりしていくうちに次のようなことが分かりました。

(1)「8」と答えた子は、ハンバーガー4個をメロンパン4個とドーナツ4個とし、4と4で「8」としてしまった。
(2)「4」と答えた子は、ハンバーガー4個をメロンパン4個とドーナツ4個とし、メロンパン4個を食パン2斤に変え、また、ドーナツ4個をメロンパン2個に変えたが、そのメロンパンの2個を食パンと勘違いし、2と2で「4」としてしまった。
(3)「2」と答えた子は、ハンバーガー4個を、メロンパン4個とドーナツ4個に変え、食パンに変えられるメロンパンの4個を食パン2斤に変え、ドーナツは変えてもらえないからそのままにしておき、「2」としてしまった。

このように、間違えはしましたが子どもなりに考えた結果の答えです。「3斤」以外は誤りではありますが、あと一歩進めば正解出来るところまでいっている答えもあります。特に「4」と考えた6名の子どもたちは、あと一歩です。ドーナツを変えた2個がメロンパンであることにしっかり気づけば、正解にはすぐに到達できるはずです。結果として間違えてしまった子どもの答えも、子ども自身に理由を聞いていくと、考え方の方向性はあっているのです。その努力を認めながら、間違えてしまった点を指摘してあげれば、もう少しのがんばりでこの難問も解けるようになるのです。私が「間違いにこだわること」といったのは、どこで間違えたのかをひとつひとつ指摘してあげ、自らの力で解いていかなければ、解き方を教え込んでも考え方は身につかないということです。

小学校の入試問題は急に難しくなることはありません。それまで出された問題の正解率を見ながら、少しずつ問題を積み上げ、難しくしているのです。ですから、なぜこうした問題が出されるのかを分析することが必要なのです。私たちが20年以上かけてつくり上げてきた「ひとりでとっくんシリーズ」の問題が、多くの学校で「入試問題」として採用されているのも、私たちの問題づくりが学校側に認められている証拠にほかなりません。何の根拠もなく難しくしているのではなく、学力の基本を押さえた問題であるからこそ、多くの学校で採用されているのです。そうした意味でも、学校側が工夫する問題の出題根拠にはこれからもこだわり続け、それに対応できる「考える力」を育てていこうと思います。か×かではなく、限りなくに近い×もあるということを見てあげなくてはだめです。そのためにも、「間違いにこだわる」姿勢を周りの大人が持たないと考える力を正しく育てることはできません。

PAGE TOP