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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

夏の学習課題(2) 安易に解き方を教え込まないこと

第251号 2010/7/9(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 この時期になると、何が得意で何が苦手か、どんな問題でつまずくかが相当はっきりしてきます。個人の苦手意識以上に、多くの子どもたちが壁と感じる問題もはっきりしてきます。その問題を領域ごとに整理してみると、次のようになります。

(1)未測量シーソーによる四者関係・あるものを仲立ちとしたつりあい
(2)位置表象四方からの観察・地図上の移動・回転位置移動
(3)数一対多対応に関する複合問題・交換・数のやり取り・数の増減逆思考
(4)図形線対称・重ね図形・回転図形
(5)言語しりとり・指示の聞き取り・お話づくり
(6)推理回転推理・法則性の理解・魔法の箱

こうした壁になる難しい問題には、その原因に共通していることがいくつかあります。それは、

 (A) 視点を変えてものを見る
 (B) 2つの視点を同時にとらえる
 (C) あるものに置き換えて考える
 (D) 回転の要素が入り込む
 (E) 変化の法則性を自ら発見する

すべてではありませんが、こうした視点でのものの見方が問題を難しくしているようです。ですから、問題解決にはそうしたものの見方を身につけさせることが大事であり、その都度都合のよい解き方を教え込んでも効果がありません。なぜそうすればよいのかを子どもが理解しなかったら、類似した他の問題の解決にはつながらないのです。よく見られる教え込まれた解き方の例を次に挙げます。

シーソーでの重さ比べは「関係推理」の代表的な問題ですが、子どもたちにとっては難しい問題のひとつです。「三者関係の推理」が基本ですが、最近の入試では三者関係の推理はほとんどでなく、四者関係や五者関係の推理に発展しています。現段階で「三者関係」を理解できない子はほとんどいませんが、答えが出た後に理由説明を聞くと、関係推理とは全くかけ離れたやり方で解いている子が見られます。例えば次のような問題です。

シーソーの絵(みかんとりんごを比べるとりんごが重い、りんごとぶどうを比べるとぶどうが重い)
重いものから順番にをつけてください。

この場合、重い順はぶどう、りんご、みかんとなりますが、なぜかと聞くと次のように答える子がいます。『だって、1回出てきて下がったのはぶどうでしょ。だから1番重いの。1回出てきて上がったのは、みかんでしょ。だから1番軽いの。2回出てきて、上がったり下がったりするのはりんごでしょ。だから2番なの』 出てきた回数と上がり下がりを関連付けて考える発想は、大人から機械的に教え込まれた解法以外の何物でもありません。こんな発想をしていたのでは次のような問題は到底解けません。

 (問1) シーソーの絵
・ 2番目に重いものはどれですか?
・ 2番目に軽いものはどれですか?


 (問2) シーソーの絵
2番目に重いものはどれですか?

「シーソー」は場面がいくつあろうと、またつりあいの場面が入っていようと、解き方の原則はひとつしかありません。それはまず1番重い物を探し、次に残った物の中で1番重い物を探し、また残った物の中で1番重い物を探し・・・・それを繰り返せばそれが重い順であるということを経験させることです。軽い順はその逆をやればよいのです。そうすることによって、どんなに変形された問題でも解けるはずです。なぜそれがよいのか。それは、子ども自身が具体物を使って無意識にそのようなやり方で問題を解決しているからです。

5つの重さの違うマッチ箱を与え、これを重い順に並べてくださいという課題を出します。すると子どもたちはまず1番重い物を探します。それを横に置き、残った4つの箱でまた1番重い物を探します・・・これを繰り返します。まさに無意識に行っているこの方法を、シーソーによる関係推理の課題でも使えば良いのです。子ども自身が行っている方法を意識化させ、その方法をペーパー問題でも使えば、問題がどんなに変化しようと対応できるのです。登場した回数や上がったり下がったりした回数で解決できる場合もありますが、それは限定的で、そこで解けたからシーソーの関係推理がわかったということにはなりません。なぜなら、子ども自身もどうしてそうなるのかわからないまま、その方法だけを身につけているからです。

このように、大人がこうすればきっと間違いなく解けるだろうと考え、教え込んだ解き方では、子ども自身が本当に理解できず、それゆえ条件が違う問題が出された時その方法が使えないのです。結果だけを教え込み、なぜそうなるのかわからないまま教え込むから当然と言えば当然ですが、例えば「数のやり取り」の場合などは、その典型と言えるでしょう。シーソーと同じように、意味がわからないまま解き方を教え込まれるため、応用がきかないのです。例えば次のような問題です。

花子さんと太郎君が、おはじきを5個ずつ持っています
  1. 太郎君が花子さんに1個あげると、2人のおはじきの違いはいくつですか
  2. 2個あげると、違いはいくつですか

この問題は、数のやり取りの中でも難しい問題のひとつです。1の問題の場合、「違いは1個」と答える子が現段階でも3分の1近くいるのではないかと思います。その理由は、「花子さんの方が1個増えたのだから、違いは1個」となるのです。その時、太郎君の方が1個減っているという事実に気付かないのです。ですからこうした問題の場合、「1個あげたら違いは2個だよ。2個あげたら違いは4個だよ。しっかり覚えておいてね」と教え込まれるのです。しかし、「どうして1個しかあげていないのに2個も違うの」という質問に対して説明できないのです。これでは本当に解ったことにはならないし、そもそも、はじめに持っている数が違えば1個で差が2個つくとは限らないのです。こうした教え込みの実態が年々増えていることを懸念しています。

基礎学力を育成する幼児期の教育においては、答えを導き出すプロセスを大事にし、子ども自身に考えさせることが重要です。一つの結論に至るまで、事物を使い、試行錯誤させ、間違いを繰り返しながら物事の関係性をつかませることが大事です。そうして身に付けたものの考え方は、いろいろなところで応用がきくはずです。解き方を教え込むことが受験指導だと思われている方が大勢いますが、そんなやり方をしていたのでは柔軟な思考力は育たないし、現在出されているような工夫された問題(子どもにとっては初めて見た問題)にも対応できません。今この時期に、これまでの学習の仕方がまずかったのではないかと相談にみえる方々の多くは、こうした「教え込み」の指導の結果、今、大きな壁にぶつかっているのです。大人の発想で安易に解き方を教え込むことが受験対策ではありません。時間がある夏休みにこそ、ひとつの問題に集中させ、子ども自身がまずどんな解き方をするのかをよく見てあげてください。そのやり方を評価しつつ、もし違ったやり方があるならば、その時にこそ「良い解き方」を伝えてあげるべきです。賢い子に育てるためには、急いで解き方を教え込むことではなく、大人の側の「待つ」姿勢が大事です。

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