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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

応用段階を迎えた子どもの学力の現状(1) 数のやりとりの難しさ

第246号 2010/6/4(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 秋の受験を控えた年長組は、残り5か月の受験対策となりました。そろそろ難しい過去問に取り組む時期ですが、基礎がしっかりできていない段階で、どんなに難しい課題を練習しても効果はありません。こぐま会では11月から4月まで、基礎段階の学習を「事物教育」を中心に行い、5月連休明けから応用段階の学習に入りました。学校別の指定校クラスでは、問題の難易度を考え、時には設問を少し変えながら「過去問」のトレーニングに入りました。難しい課題をやればやるほど、基礎がしっかりできているかどうかが歴然としてきます。これまで難しい過去問ばかりをペーパーでトレーニングしてきた子どもたちは、ここにきて失速気味です。なぜか。考え方の基本ができていないところに、パターン練習で解き方のみを教え込まれてきただけだからです。答えの根拠を説明させたり、同じ趣旨の問題でありながら形を変えた質問にどうしても対応していけません。こうした子どもたちは今からでも遅くありません。「基本」となるものの見方・考え方が身についているかをしっかり点検してください。応用段階の学習は、そうした考え方の基本をいくつも組み合わせて解いていかなければならない問題ばかりです。また、答えを導き出す過程をしっかり見通す力も必要になってきます。どんな作業をすれば答えに到達できるのかを、子ども自身が考えなくてはなりません。一見易しそうに見える問題も、子どもが問題を解決する過程にまで踏み込んでみると、意外と難しい問題が多いのです。

現段階での学力の問題点を、最近学習した課題から例をあげ、一緒に考えてみたいと思います。どこで子どもはつまずくか。そして、それを突破するためにどんな学習が必要かも考えてみたいと思います。指定校クラスで扱った問題に、次のような問題があります。


 今日はあきちゃんのおばあちゃんの誕生日なので、あきちゃんはおばあちゃんのお家にお祝いに行きます。お母さんはお家でケーキを作るので、あきちゃんがパン屋さんに寄って先に行くことになりました。おばあちゃんはジャムのサンドイッチが好きなので買っていくのです。

パン屋さんでは、パン屋のおじさんと4回じゃんけんをして、3回勝つとドーナツをもらうことができます。さっそくあきちゃんも挑戦しました。はじめの2回があいこで、後の2回は勝ちました。あきちゃんは、グー、パー、チョキ、パーと出しました。おじさんは何を出したのでしょうか。左から順番におじさんの出したじゃんけんを選んで、青いをつけてください。(30秒)


解答 : グー、パー、パー、グーに青い
(2007年度入試 聖心女子学院初等科 出題)

この問題は、じゃんけんの勝ち負けをテーマにした関係推理の問題といっていいでしょう。問題を分析すると、覚えておかなければならない大切な点がいくつかあります。
  1. 4回じゃんけんをやったけれど、あきちゃんは、はじめの2回はあいこで、後の2回は勝った
  2. あきちゃんが出したのは、グー・パー・チョキ・パーであること
  3. 答えなくてはいけないのは、あきちゃんの方ではなく、じゃんけんの相手である、パン屋のおじさんの出した手であること

じゃんけんという単純な遊びも、こうした問題になると勝ち負けと出した手の関係を踏まえ、相手の手を考えるという「関係推理」の思考が必要になります。

実際に行ってみると、限られた時間内(30秒)に答えを出せる子どもが少ないのに気付きます。時間を十分かければ解ける問題ではありますが、短時間に処理することは相当難しいようです。どんな点でつまづくのか見てみると、
(1) 4回の勝負の結果を忘れてしまう
(2) 女の子が出した手を思い出せない
(3) 勝ち負けと、出した手の関係から、おじさんの立場に立った発想ができない

逆に言えば上記3つの観点を即座に判断できる子が、時間内に正解できる子であるということになります。最近の受験では、こうした関係を考える問題、視点を変えて物事を判断する問題が増えています。観点を変えて物事を考えられるかどうかを見る意味で、典型的な問題の一つです。

また、次のような問題も考えてみてください。

 花子さんと太郎君が、5個ずつおはじきを持って、じゃんけんゲームをしました。じゃんけんのルールは、勝った人は負けた人から1個おはじきをもらえるというものです。


(1)最初に花子さんが勝ちました。2人のおはじきの違いはいくつですか。
(2)3回続けてじゃんけんをしました。最初の2回は花子さんが勝ち、最後は太郎君が勝ちました。今どちらが何個多くおはじきを持っていますか。
(3)今度はルールをいろいろ変え(勝ったら負けた人から2個もらえる)やってみましょう。

最近学習した「数のやりとり」です。(1)の問題は、半数以上の子が1個と答えます。実際にじゃんけんをしている状況でもこのような答えになります。勝った側の立場に立てば1個もらったと考え、負けた側の立場に立てば1個あげたと考えるため、「違いはいくつ?」と聞いても移動した「1個」に目が向き、違いも1個になってしまうのです。勝った側だけでなく、負けた側のことも考えられるかどうかがポイントです。この時違いは2個と正解できる子は、勝った人は6個で負けた人は4個と、移動した数の1個に着目するのではなく、移動した結果の数に着目し、双方の数を同時にとらえてその差を考えています。ひとつの観点だけでなく、他の観点も取り込みながら「違い」を考えているのです。

この関係を理解するのが難しいのでしょう。このじゃんけんゲームに象徴される「数のやりとり」は、受験生が最後まで引きずる課題です。それだけ難しい課題であり、観点を変えて物事を考える典型的な問題です。こうした思考法は、この他にも「量の保存」「観点を変えた分類」「四方からの観察」など、難しい問題のいたるところで求められる大事な考え方です。応用段階の学習においては、こうした問題にたくさん挑戦させ、柔軟な思考を育ててください。

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