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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

教え込みの受験勉強が、子どもの伸びる芽をつみ取っている

第240号 2010/4/16(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 先日、幼児教育をめぐる講演会の席である地方の私立小学校の副校長先生とお会いし、お話しする機会を得ました。副校長先生にはこぐま会が実践している「事物教育」を大変評価していただき、そうした本物の教育を受けた子どもたちを小学校側は迎えたいとお話しされていました。しかし、実際の入試対策はそのようになっておらず、何の事物経験もないままペーパーで難しい課題を繰り返しトレーニングし、受験してくる子が多いことを危惧されていました。また、そのようなペーパー中心の受験勉強をしてきた子の多くが、入学後伸びないということを嘆いていました。自分で考えて問題を解くのではなく、パターン化されたトレーニングで解決しようとする指導で入学してきた子の多くが、入学後伸びないというのです。ペーパー主義の間違った受験勉強が、幼児期の子どもたちの伸びる芽を摘み取ってしまっていることを警告しているのです。子どもたちの発達に見合った事物教育をしっかりと受け、そのうえでペーパーでのトレーニングを積んでこないと入学後に伸びないというお話を伺い、私たちの方針が間違っていなかったことをあらためて確信しました。

こぐま会の発行する問題集を家庭で使用し受験対策を取っている方が多く、そうした方々に正しい学習法をお伝えするために、今年から「合格カレンダー連続講座」を開催し、すでに15回の講座が終了しました。こぐま会の会員だけでなく、外部の方の参加者も多く、セミナー終了後、学習に関する相談をたくさん受けます。その中でやはり多いのは、「どの時期にどんな学習をすればよいか」「ペーパー学習の前にどんな経験を積めばよいか」という質問です。幼児教室に通われている方はその教室の進度に沿って学習を進めるのが一番良いのですが、教室に通わず家庭で学習する場合、年間の学習計画が立てられず、常に「これでよいのか?」という想いで取り組んでいるようです。その結果、実際に出された過去問が気になり、早いうちからその問題を解かせようとするあまり、子ども自身の力で解くことができず、どうしても教え込みをしてしまうというのです。

こうした状況は、情報が公開されず、教科書もない入試であることから必然的に起こってくる問題であり、今にはじまったことではありません。また、家庭学習でのことならまだしも、高い月謝を取って教室で行う授業自体が、カリキュラムがない、スタート段階から過去問に取り組ませる、その結果教え込みになり、ともかく繰り返しのトレーニングで形だけわかったような気にさせる・・・そうした指導がまかり通っていることが大問題なのです。いまや小学校受験の教科書的存在になった「ひとりでとっくん365日」を、受験までに4巡・5巡解かせることが入試対策のように言われているようですが、それは間違いです。そんな方法では「考える力」は身に付きません。繰り返しのトレーニングで覚えこんだことは、忘れるのも早いし、同じ趣旨の問題を自分の力で解くことはできません。「なぜ」という問いかけに、自分で答えられなければ本当に解ったことにはなりません。

少ないペーパー問題で学校側は何を見ようとしているのか。また学力だけでなく、行動観察を含めて学校側が考えている「合否」の判断はどこに根拠があるのか。冒頭で紹介した副校長の「小学校に入ってから伸びる子」がどんな子であるかを学校側は真剣に考え、入試問題を工夫しているはずです。私たちの主張する「教科前基礎教育」が評価されるのは、入学してくる子どもたちが小学校生活を送るにあたって必要な「レディネス」を構築するには、一番適切な内容と方法だからです。小学校受験が子どもたちの成長を阻害するようなものにならないよう、まともな幼児教育の実践こそが、今求められていることを知っておかなくてはなりません。

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