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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

訓練ではなく基礎教育を

2005/08/18(Thu)
こぐま会代表  久野 泰可

 小学校入試は、試験のやり方が学校によってまちまちです。学力試験を中心に、行動観察や三者面談等の総合評価で合否が決まります。試験の中心となる学力試験も、ペーパーを使って行う学校もあれば、個別テストを中心にペーパーを使わない方法で行う学校もあります。こうした点が中・高の入学試験と違うところですが、そのことが入試対策を複雑にしている面も否定できません。私が33年前にかかわった時は、学力試験は、そのほとんどが『知能検査』の問題でした。パターン化したトレーニングで出来てしまう問題ですから、年長の夏から短期集中で準備すればそれで合格できた時代でした。

 その後、小学校入試が一般化し、受験する子どもたちが増え、みんながトレーニングしてきて差がつかなくなったためか、知能検査的な問題だけでなく、算数や国語につながる問題を多くのペーパーを使って出題してきました。その結果、準備教育が過熱し、行き過ぎた訓練によって、適応障害を起こす子どもたちが出現し、そうしたことが臨床医から指摘されたりもしました。ペーパーテスト全盛の時代です。

 その後、学校側の反省もあってか、多くの学校でペーパーを使わない『個別テスト』が導入されました。小学校入試の本来の姿だと思いますが、これには時間が相当かかります。年間計画で、限られた日数しか取れない入試ですから、この間に合否を出さなくてはなりません。きめ細かに出来る『個別テスト』であるとわかっていても、学校側は全面的に採用できなかったのでしょう。そしてもうひとつ。個別テストではわからない子どもの様子を、集団活動を通してみようと、多くの学校で『行動観察』を導入しました。もともと、女子校で行っていた自由遊びが行動観察の原点ですが、最近では、指示行動や集団製作活動などを通して、一人一人の子どもの集団での様子が観察されています。そして今また、学力低下現象を背景に、学力試験の内容が変化し始めています。一口で言えば『論理的思考力』が要求され始めているのです。学校側が工夫して作った入試問題は、子どもたちにとって初めての問題と映り、一回の指示で問題の意図を理解する能力が求められています。

 なぜ行動観察が重視されているのか。なぜ、知能検査的な問題ではなく、子どもたちにとってはじめての問題が増え始めているのか。それは、裏を返せば、小学校入試そのものに対する学校側の考え方の変化の表れでもあるのです。年長の秋に、これまでのような訓練によって出来てしまうペーパー試験で仮に100点をとっても、そのことが、その子の入学後の学力の伸長を保証しないという認識を、追跡調査を通して学校側が持ち始めているということです。『遊べない子は伸びないんだよ』といったある学校の校長の一言は、そのことを端的に言い表しています。小学入試の準備教育を、動物を調教するのと同じ発想でやっているようでは、合格できません。入試対策を、「訓練」ではなく『幼児期の基礎教育』としてとらえなければ、これからの入試には対応できません。

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