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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

受験を終えた子どもたちのその後の学習

第204号 2009/7/3(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 昨年秋に受験し、今年4月に入学した新1年生の子どもたちも早いものでもうすぐ夏休みを迎えます。受験に向けて、教室通いと家庭学習で、休む暇もなく毎日頑張りぬいてきた子どもたちのその後の学習はどうなっているのでしょう。毎日行ってきた学習習慣は持続しているのでしょうか。思い出したくもない苦しい受験生活を送ってきた子が、まったく勉強に興味を持たなくなったりしていないでしょうか。幼児期の基礎教育を通して受験向けの学習を推進してきた私たちにとっては、受験ですべてが終わるのではなく、入学後の子どもたちが自信を持って教科学習に取り組んでいるのかどうか、もっといえば、幼児期の基礎教育がどのように役立っているのか、指導者の一人として責任を感じると共に、子どもの成長・思考力の深まりに大変興味があります。

韓国や中国で現地の人たちに、こぐま会の「教科前基礎教育」の内容についてお話しすると、必ず返ってくる質問があります。それは、「幼児期にそうした教育を受けることによってどんな成果が見られますか」という質問です。まったく当然の質問です。意図的な教育活動は何らかの成果をもたらすことによって、はじめて意味をなすからです。受験を抱えた教育では、「合格」が成果だと言ってしまえばその通りです。しかし、幼児期の基礎教育は、入試の結果に左右されることなく、子ども一人ひとりの中に、基礎学力として定着していかなければなりません。

これまでこぐま会では、幼児期の教科前基礎教育の成果を小学部に進級した子どもたちの学力である程度確認していましたが、その内容は既存の教科学習の範囲であり、その意味では小学校に上がったとたん独自の方法・独自な内容ではなく、小学校の指導要領で定められた内容でした。しかし、ここ数年、さまざまな国の方や受験を目的としない多くの日本の子どもたちに、私たちの作った教具・教材を使ってもらっている以上、独自な内容・独自な方法を編み出し、幼小一貫させた教育プログラムが必要だということを痛感していました。KUNO-methodを採用する韓国や中国のひとたちに対して、「こぐま会の基礎教育が、将来にわたって意味のある教育である」ということを証明しなくてはなりません。そこで、昨年11月に入試を経験し、この4月に1年生になった子どもたちを対象とした学習組織「ひまわりクラブ」を立ち上げ、この6月までに20回の授業をこなしてきました。毎回10枚程度のペーパー教材を準備していますので、約200枚のオリジナルペーパーができたことになります。

算数科を中心に、子どもの思考力を育てる観点で低学年の学習内容を組み直し、幼児期に学習した内容に連動させた指導を実行してきました。私自身も以前中学校受験の算数科を担当した経験があるため、学習内容の系統性は知っているつもりですが、今回組み立てた内容は教科書の学習系統は全く無視し、まったく違った発想で行いました。違った発想というより、幼児期に学習した内容を前提に組み立てていけば、そうせざるを得なかったと言ったほうが正しいかもしれません。新しい幼小一貫プログラムは、次のような原則に沿って学習内容を考えました。

  1. 計算は数の操作として行うだけでなく、現実の数的変化を表す式としてとらえさせ、常に計算式の裏側に、子どもたちも理解できる生活実感を盛り込む
  2. 幼児期に(受験向けに)学習した、数の多少・数の増減・数の合成・数の分割・一対多対応・等分・包含除・・・等を土台とする以上、はじめから、たし算・ひき算・かけ算・わり算を同時に教えていく。なぜなら、幼児は具体的な生活場面ですべての数の操作を経験しており、小学校入試の問題は立式こそさせないものの、四則演算すべてにわたっている。特に難しいと考えられるかけ算は、一対多対応の考え方を土台とし、わり算は、等分や包含除を土台とする
  3. 数式の背景に具体性を持たせるために、お話を聞いて式を立てたり、数式を見て作問させたりすることを重視する
  4. 計算式が現実の世界における数の変化の表現であることを徹底するために、文章題の練習に相当の力を入れる。その際、どのような式を立てるのか、なぜそうした式になるのかを常に説明させる
  5. 計算のスピード性は最初から求めない。計算力は子どもが意識し意欲的に取り組んだとき、相当の飛躍が見られることをこれまでの経験から知っているからだ。子どもの頑張りを励ます学習の動機づけに最大限力を入れる
  6. 文章題は入試向けに行ってきた問題をそのまま使い、それをどう立式し、解いていくのかを見守る。間違えた時はもう一度受験向けに学習したことを思い出させ、具体物操作をさせたり、絵を描いて説明する

以上の考え方で1月から6月までの半年間に20回の授業を行い、一部の課題をぬかして、基本的には小学校3年生までの学習内容を指導できました。毎回の子どもたちの様子を見ながら、授業の2日前に教材が完成するというような綱渡りをしながら、ともかく無理な学習に陥らないように気をつけ、授業を進めてきました。どんな教材で学習を進めてきたのか。どこまで理解できたのか。使用した独自の教材を少し紹介し、系統性をふまえれば1年生の1学期でここまで指導できるということお伝えしたいと思います。

6月27日 第2期10回目の授業 第2期授業の総まとめ

(1)足し算・引き算 (2)くり上がり・くり下がりの計算 (3)かけ算九九 (4)わり算 (5)9マス計算 (6)読み上げ算 (7)お話を聞いて式を立てる (8)文章題 (9)文章題 (10)魔法の箱
この他にも、を使った式や、Xを使った式なども練習しました。

□を使った計算 Xを使った式
また、計算式を本当に分かっているかどうか、作問練習もしました。

第10回最後の問題作り
ここに至るまでにすでに200枚程のペーパーを独自に用意し、その練習を踏まえて最後のまとめにこのペーパーを使いました。

私自身の予想をはるかに超え、子どもたちの学ぶ意欲に圧倒されながら進んできました。特にかけ算九九の暗唱は、子どもたちも5秒以内に言おうと家庭でも一生けん命練習しているようです。ただ、個人差は大きく、まだまだトレーニング不足の面もありますが、幼児期に行ってきた学習につなげてあげれば、無理なく指導できるという事実は大きな収穫でした。この考え方を推し進めていけば、これまでの算数指導とは違った発想のプログラムが完成できるかもしれないと、ひそかに期待しています。

それ以上に、生活感から遠ざかった算数科の内容をもうすこし生活や活動に戻し、幼児期の学習体験につないでいけば、効率の良い「幼小一貫教育」が実現でき、入試向けにがんばってきた学習が合否のいかんにかかわらず、大変意味のある学習であったことがわかります。

逆にいえば、そうしたつながりを意識した入試対策をすることによって、受験への取り組みを幼児教育を究めるチャンスにしていただきたいと思います。受験が終わったら何も残らない機械的な教え込み教育では、いまや「合格」すらいただけない現実に目覚めていただきたいと思います。そして、受験の指導者は繰り返しのトレーニングで身につける機械的な教え込みをやめ、子どもの将来に意味のある、まともな幼児教育を目指していただきたいと切に思います。

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