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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

幼小一貫思考力育成クラス 実践報告(3)

第202号 2009/6/19(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 私たちが長年行ってきた「教科前基礎教育」が、小学校教育の中でどのように意味を持つのか、そして、その効果はどのように現れるのか。こぐま会の教育が教科学習とどのようにつながり、どのような効果を発揮するかを見定めるため、昨年秋に入試を終えた子どもたちを引き続き同じ考え方で指導してきました。その幼小一貫「ひまわりクラブ」の授業は年長1月から始まり、先週で18回の授業を終えました。最初の頃の様子は、このコラム188号189号でお伝えしましたが、現段階でどこまで進めたのか、そして、どこに理解の壁があるのかをすこし整理してお伝えしたいと思います。

4月に入学した子どもたちは、学校で「算数」の学習を始めていますが、まだまだ基礎の段階です。受験向けに行ってきた学習を繰り返している状態で、子どもたちも「易しすぎる」と少々不満顔です。ところで「ひまわりクラブ」では、1月以降次のようなテーマで毎回2時間の授業を行ってきました。

ひまわりクラブ、第1期~第2期授業内容
第1期(年長1月~年長3月)
第1回 たし算・ひき算って何?
第2回 声を出して読み、文を書こう
第3回 たし算・ひき算の計算法
第4回 隠れた数を探せ ブラックボックス
第5回 かけ算って何?
第6回 わり算って何?
第7回 かけ算って答えをどう出すの?
第8回 わり算って答えをどう出すの?
第9回 話を聞いて式を立て、解いてみよう
第10回 文を読んで式を立て、解いてみよう
第2期(小一 4月~6月)
第1回 3つの数の計算はどうするの
第2回 繰り上がりの計算はどうするか
第3回 繰り下がりの計算はどうするか
第4回 逆思考の問題をどう解くか
第5回 いろいろなタイプの文章題に挑戦しよう
第6回 繰り上がり・繰り下がりの計算と図形問題
第7回 2段階複合問題の解き方
第8回 計算オリンピック
第9回 Xを使った式を立ててみよう
第10回 第2期授業の総まとめ
前回報告した際にもお伝えしたように、計算を早くこなすことに重きを置いた指導ではなく、幼児期に「教科前基礎教育」として培ってきた考える力が小学校の学習でどう活かされていくのか。幼児期の学習を教科学習にどうつなげていけるのかを考え、まったく新しい発想でカリキュラムを立て、指導してきました。子どもの反応・取り組みを見ながら無理のないように次回の内容を考え、集団授業と個別学習を組み合わせながら進めてきました。一番心配したのは、「かけ算」や「わり算」をどう理解してくれるのか、計算はいったいどこまで理解できるのかということですが、その点について、現段階ではほとんど問題なく理解し進んできています。18回の授業を終えた現在の子どもたちの取り組みの現状を少し報告しましょう。

  1. たし算・ひき算・かけ算・わり算の計算は問題なく理解できるが、スピード性については相当個人差がみられる。どの程度理解できているのか。6月13日に行った計算オリンピックでは次のような結果が出ています。
    (小1・6月時の10人の平均値)
    A)たし算の計算(10までの計算)1分間で平均23問
    B)ひき算の計算(10以内の計算)1分間で平均22.2問
    C)3つの数の計算(たし算ひき算・混合算)1分間で平均8.3問
    D)くり上がりのある計算1分間で平均10.5問
    E)くり下がりのある計算1分間で平均11.7問
    F)かけ算の計算(2の段から5の段までの九九)1分間で平均21.6問
    G)かけ算の計算(九九をバラバラに並べる)1分間で平均12問
    H)わり算の計算1分間で平均7.8問
    I)四則混合算1分間で平均4.8問
    (混合算とは、2×3+4  12÷4×3など左から順に行うもの)
  2. かけ算九九については、ほとんどの段を暗唱し、2の段や5の段などは5秒以内で言える子も半分近くいます。
  3. わり算は、最初「等分除」や「包含除」の考え方で指導し、かけ算の逆算としては指導していないため、計算問題としては一番時間がかかってしまいました。しかし、最近になってほとんどの子がかけ算九九を言えるようになったので、わり算をかけ算九九の逆算として指導し始めています。
  4. 予想したとおり、話を聞いて式を立てたり、文章を読んで式を立てて解いていくことが計算問題より格段に難しいことがわかりました。
  5. その確認のために、式を見てお話をつくる「作問」を行っていますが、「かけ算」の問題づくりが子どもにとってはいちばん難しいようです。

私が毎回一番関心を持って指導し、子どもの理解力を確かめてきたのは「文章題」の立式です。受験向けに相当難しいかけ算やわり算につながる学習をしてきましたが、それを文章題として行った時、子どもたちはどのように理解し、立式できるのだろうかということが最大の関心事でした。やはり、この点に関しては予想通り、すんなりとはいかず子どもたちも苦戦しています。

例えば、先週行った問題は、これまで受験向けに「数のやりとり」として、何回も練習してきた問題ですが、子どもたちの解答をみると、考えの過程を式であらわすことの難しさがはっきりと見て取れます。
太郎君と花子さんは、6個ずつサクランボをもらいました。花子さんが太郎君に2個あげると、2人のサクランボの数の違いはいくつになりますか。3つの式を書いて考えてみましょう。

どんな答えが出たのか、紹介しましょう。

Aさん  12÷2=6 6-2=4 8-4=4 4個
Bさん  6×1=6 6-2=4 6-4=2 2個
Cさん  6-2=4 8-4=4 4-2=2 2個

すでに答えが暗算でわかってしまっているため、思考の過程を数式に置き換えるのは難しいかもしれません。こちらが期待した、6+2=8 6-2=4 8-4=4 はひとりもいませんでした。Aさんは、最後に8-4=4の式を書いてはいますが、どこにも8を求める式が出てきていません。答えが4とわかってしまっているので、8を突然使ったのでしょうか。

BさんもCさんも、最初にこの答えを2と考えているのかもしれません。幼児の場合は、この問題を「2個」と答える子がきわめて多いのです。2個もらった太郎さんに着目するか、2個あげた花子さんに着目するか。片方だけに着目するため、この問題に「2個」と答えてしまうのです。そこが「数のやりとり」の難しさです。もしかしたらそのように考え、答えとなる2個を導くためにこじつけをやっているのかもしれません。上の式を見る限り、花子さんと太郎さんの両方の視点に立って関係を考えていないように見えます。

このように見てくると、四則演算が相当できるようになっても、解答に至る思考の過程を数式に置き換えて解いていくことの難しさがわかります。式自体の計算は簡単なものでも、(この場合簡単なたし算・ひき算で解ける)文章題の立式ができないこうした子どもの実態をみると、計算力だけ高めればよいとする学力観が間違っていることは明確です。日本の子どもたちの学力が落ちたのは、算数イコール計算力としてきた教える側の大人たちの責任です。私たちが「計算だけできてもだめだ」と昔から言い続けてきていることは、こうした子どもたちの現状をたくさん見てきたからです。「どのように数の変化をとらえたか」「思考のプロセスをどのような数式に置き換えていくのか」そうしたことができて、初めて文章題が解決できるのです。そこには「考える力」「論理数学的思考力」がどうしても必要です。その考える力を育てる授業を工夫せず、柔軟な思考ができる低学年の時期に計算だけを重んじる日本の算数教育は、相当な無駄をしているとしか言いようがありません。

私たちが幼児期に行ってきた「教科前基礎教育」「事物教育」がどのような意味を持つのか。「こぐまの教育」完結のために、この新しい課題「教科前基礎教育を受けた子どもたちの学力を、どこまで伸ばすことができるか」に私も当分の間、挑戦しようと思います。

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