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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

こぐまの教育が完結する

第191号 2009/3/21(Sat)
こぐま会代表  久野 泰可

 昨年秋に入試を終え、この4月に入学する子どもたちを対象とした「受験勉強から小学校の勉強への橋渡し」の授業が先週の土曜日に終了しました。小学校低学年で学ぶ四則演算の考え方を中心に10回の講座として行いました。始める前は、かけ算やわり算がどこまで理解できるか少々心配な面がありましたが、それ以上に期待も大きく、結果として全員の子どもたちが理解できる指導ができたと思っています。その指導の様子は以前このコラムでもご紹介したとおりです。(こぐま通信第188号第189号

今回の試みは、いわばこぐま会が目指してきた「論理的思考力育成」の当面の目標である「小学校算数へのつなぎ」でしたが、その目標はしっかり達成できたと思います。私が今回の指導で目指したものは次のような点でした。

  1. 入試までに行ってきた学習を無駄にしないよう、そこで学んできたことを小学校の算数につなげる
  2. いわゆる小学校の算数を先取りして教える「就学準備」としてどこでも行っているような計算練習を主体とした方法をとるのではなく、これまで学習してきたことをもう一度復習しながら、それと同じ方法で(具体物や絵を使いながら)小学校算数への橋渡しを目指す。
  3. 「たし算・ひき算」の指導が終わったら「かけ算」を指導し、それが終わったら「わり算」を教えるという従来の方法をとるのではなく、四則演算すべてをこの時期に一挙に指導する。そのことを通じて、現実の世界における数の変化の意味を多角的にとらえさせる。
  4. 小学校で理解の差が出やすい「文章題」学習へのつなぎを意識し、計算だけトレーニングをするのではなく、数式の意味を常に現実の世界における数の変化としてとらえさせる。つまり、具体的な場面における数の変化をしっかりとらえさせながら、計算式を理解させる。そのために徹底した立式練習を行う。
  5. 文章を論理的に読み解く練習を「文章題」の解法を通して行う。読解の授業と論理数学的思考のトレーニングを文章題練習の中で同時に行う

しっかりと身につけるためにはこれからも相当量のトレーニングが必要ですが、こぐま会のこれまでの学習が今回の学習でひとつの完結を見たといってもいいかもしれません。

四則演算の中でその計算の意味がしっかり理解できているかどうかを見るには、文章を聞かせたり、読ませたりして、立式させるのが一番です。毎回立式練習をしてきましたが、やはり難しいのは「かけ算」の立式のようです。ふたつの意味の異なる数字をかけあわせて出てくる答えが一体何なのかがわかりにくいし、生活的ではないからでしょうか。ひき算の「求差」を除けば、たし算もひき算も同じ物の数の操作ですし、わり算の場合は、等しく分けるとか同じ数ずつまとめるというように、極めて生活感覚でわかりやすい数の操作ということになります。ですから、たし算・ひき算・わり算は立式できても、かけ算は簡単にはいかないのかもしれません。

従来の指導法と違って、幼児期の基礎教育を土台にそこで学んだ成果を引き継ぐ形で行った今回の新しい試みは、幼児であってもこれまでの指導法を活かせば、相当程度の高いレベルまで指導が可能だということが判明しました。逆に言えば、試験が終わったら何も残らない受験勉強ではいけないということです。入試が終わっても後に続く、本当の意味での基礎教育がしっかりとなされれば、合否の如何に関係なく、莫大な時間を掛けた受験勉強が意味を持ってくると言うことです。

また、中学受験を目指す多くの塾が早いうちからの生徒集めとして行っている低学年教育の内容と方法をみると、何一つ工夫されていないことがわかります。受験準備の予備軍として、少し早めに先取りして薄めて行う学習にいったいどんな意味があるのかということも、今回の経験を踏まえて強く感じました。子どもは学びたがっている、しかし大人や教師はその要求に応え切れていない・・・それが現状のようです。幼児にかけ算やわり算を指導できたという事実に意味があるのではなく、受験対策として行ってきた基礎教育と同じ方法で指導していけば、幼児でも相当レベルの高い教育が可能であるということが実証できたということに意味があるのです。指導の系統性が確立できれば、小学校6年間に行う今の算数は4年生の夏までに理解させることはできるはずだと思います。これは、個人的には実証済みですが、集団教育としても実現可能だと確信しています。上から下におろす教育ではなく、下から上に押し上げる教育プログラムが今必要なのではないでしょうか。それは、幼児と関わってきた指導者がやるべき大事な仕事だと思います。

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