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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

幼児に掛け算をどう教えるか 幼小一貫思考力育成クラス 実践報告(1)

第188号 2009/2/27(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 受験の終わった年長児を対象に、これまで学習してきた内容を入学後の学習につなげる「思考力育成講座」を1月から開講し、現在7回の講座を終了しました。10回の講座として入学前に行う学習内容を次のように定めました。現在予定通り学習は進んできています。

幼小一貫思考力育成クラス ひまわりクラブの学習内容

第1回 足し算・引き算って何?
第2回 声を出して読み、文を書こう
第3回 足し算・引き算の計算法
第4回 隠れた数を探せ(逆思考・□を使った式・魔法の箱)
第5回 掛け算って何?
第6回 割り算って何?
第7回 掛け算って答えをどう出すの
第8回 割り算って答えをどう出すの
第9回 話を聞いて式を立て、解いてみよう
第10回 文を読んで、式を立て、解いてみよう

受験向けに学習し、身につけてきた思考力をより深め、小学校低学年の算数科において求められる論理的思考力の育成につなげたいと考え、学習内容を工夫してきました。それは、「就学準備」としてどこでも行われている、たし算・ひき算の計算を素早くさせることや、かけ算・わり算の計算を早く身につけさせることではありません。計算力を高めることも大事な課題ですが、その前にすべきことがあり、その部分がしっかり身についていないと、入学後の学習で、思考力のなさが露呈してきます。たとえば、入学前に計算だけのトレーニングで、わり算までできるようになった幼児がいるとします。その子に次のような課題をあたえた時、全て解決できるかどうか、はなはだ疑問です。

  1. 「6+3」「6-3」「6×3」「6÷3」というように、同じ数字で作られた式を使ってその計算の意味の違いをお話づくりの形で表現できるかどうか。
  2. 「3×4」と「4×3」の答えは同じ12であるが、意味がどう違うのか、タイヤをテーマにお話づくりができるかどうか。

簡単な問題ですが、こうした問題がしっかり理解できて、計算練習をしているのかどうか疑問です。小学校の算数は、1年でたし算・ひき算、2年でかけ算、3年でわり算というように、四則演算をマスターすることが中心で、その上で小数や分数等の概念を学んでいくことになっています。その意味で、計算がしっかりできればとりあえず3年生までは安泰です。しかし、4年生以降学習する文章題において、それまでの理解の仕方が顕在化します。
私は幼児の場合、計算をする前にその計算の意味する内容を生活レベルまで下ろし、具体的な数の変化を数式に置き換えていくという作業を入れていかないとほんものの学力は身に付かないと思っています。抽象化された計算式だけでトレーニングが行われると、計算は早くできるけれど文章題になるとできないということが表面化します。それだけでなく、学習者本人も、また周りの者も計算さえ早くできれば算数の能力が高いと錯覚してしまうことが一番怖いことです。幼児の場合、同じ数を使って、4つの計算の意味の違いを具体的な場面での数の操作としてお話ができるような能力を身につけなければいけません。計算至上主義の算数では、論理的思考力は育成されないし、本当に理解したことにはなりません。

ですから、かけ算九九ができたからと言って喜ぶのは早いのです。かけ算九九は興味を持てば歌を暗唱する如く覚えられます。今回参加している子の中でも、家で練習してきて教室で「2の段」を6秒以内に言えた子が2名いました。しかし、だからと言って「3×4」と「4×3」の違いを自信を持って説明することはできません。かけ算がたし算やひき算と違って、どんな数の操作なのかを理解してから九九も素早く言えるようになってほしいと考えています。

では、そのためにどうするか。小学校入試に向けて学習してきたことは計算練習ではありません。具体的生活場面に即して数の変化をとらえ学習してきました。その内容は四則演算すべてについてです。つまり、幼児も受験向けとはいえ、下記のようにかけ算・わり算まで学習してきたのです。

たし算・ひき算の基礎
一対一対応・数の増減・数の合成など
かけ算の基礎
一対多対応・つりあい・交換など
わり算の基礎
等分除・包含除など

そうした具体的場面での数の操作を、計算式に結び付けることによって式の持つ意味の違いに気づかせ、将来の文章題の理解につなげてあげることが大切です。

では、実際具体的にどうするか。先週学習した「かけ算の考え方」と「かけ算の答えの出し方」について、オリジナル問題を作りましたので一緒に考えてみてください。私が考えた指導のポイントは、これまで学習したことを小学校で学ぶ形式につなげてあげることです。そうすることによって子どもの中では一貫性ができてくるのです。

1. 第5回-1「一対多対応の復習」
2. 第5回-5「掛け算の意味」
3. 第5回-8「掛け算の立式練習」
4. 第5回-10「話を聞いて式を立てる」
5. 第7回-6「2×□の計算」
6. 第7回「2の段の掛算」

上記オリジナルペーパーについて少し解説しましょう。

1は、受験向けに行ってきた「一対多対応」の復習で、答えは○で描かせます

2は、かけ算の意味を伝えるために1と同じような場面を作り、計算式を教えます

3は、お話を聞いてかけ算の式を立て、答えも出します。この場合は九九で答えを出すのではなく、考え方で答えを出させます。受験向けに行った「お客さん」の問題を想起させながら学習をすすめます
 (例)おせんべいを3枚ずつ5人に配ります。配るおせんべいは全部で何枚ですか。おせんべいのお部屋にかけ算の式と答えを書いてください

4は、お話を聞いて式を立てます。今度は場面がないだけ難しくなります。
 (例)駐輪場に自転車が5台止まっています。タイヤの数は全部でいくつですか

5は、2の段の計算を、イチゴの数とお皿の数の関係を考えさせて、計算させます。

6は、2の段の計算を、受験向けによくやってきた自転車のタイヤの数で理解させます

これはほんの一例ですが、このような手順で指導すれば、これまで受験向けに行ってきた学習が活かされ、幼児でも無理なくかけ算の学習が可能になるのです。私自身も幼児にかけ算を教えたのは今回が初めてですが、子どもの理解力は予想以上に素晴らしく、驚いていますが、それだけでなく、幼児から一貫した系統性を持った学習によって、これまでとは違った「かけ算」へのアプローチができるのではないかと感じています。
それは、何の脈絡もなく九九を暗唱し、その上で立式させたり文章題を解かせるのではなく、九九の暗唱もできていない幼児に具体的場面での数の操作を通して「かけ算の考え方」を指導することの方が、むしろ文章題の対策にはなっていくのではないかということです。身につけた数式の世界を事実とくっつけて考えるためには、幼児期に学んだ方法を最大限活用することが大事であると思います。生活場面における数の関係を数式に置き換えていくという原則を、こうした幼児教育によって培っていけば、幼小一貫教育の意味は、私たちが今感じている以上に大きいのではないかと思います。

6+3・6-3・6×3・6÷3のお話づくりの中で、幼児にとっては、予想通り「6×3」のお話づくりが一番難しいことも判明しました。なぜなのかは、またお伝えしますが、子どもたちの取り組みからいろいろ学び、それを系統化することによって、新しい学びのプログラムができるのではないかと密かに期待しています。

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