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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

入試における文字の読み書き

第184号 2009/1/30(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 これまで小学校入試では、文字を読んだり書いたり、また、数字を読んだり書いたりすることはしないということが暗黙の了解としてあったように思います。しかし、多くの学校の最近の問題を見ていくと、その暗黙の了解が崩れていくのではないかと思われる問題が出始めています。例えば次のような問題です。

  1. ひらがなの50音表がある。先生がリングで綴じてあるいろいろな絵を見せる。
    質問:これらをひらがなだとどう書くか、その文字を指で押えてください。
    りんご・さかななど多数

  2. 4つのお部屋の上に書いてある文字(四季の名称)を読み、そのお部屋の中にある絵の中で、その季節のものに指をさす

  3. ももたろうの けらいになったものに まるをつけてください。(と問題文を読ませる) うさぎ・ねこ・くま・ねずみ・いぬ

  4. 2枚の絵カードに数字が書いてある。それを合わせた数に、あといくつあれば「10」になるか、口頭で答える

  5. 3枚のカードに文字が書いてある
    例 「あめ」「やま」「ふる」
    質問:この言葉がつながるには、足りないものがある。それを考えてお話する

長い間出されなかった、文字を読ませたり数字を読ませたりする問題が実際に出されているということです。幸い、文字を書かせる問題はまだ出されていませんが、この流れでいくと今後どうなるかわかりません。
文字を読んだり書いたりすることは、母国語であるため特別な教育を受けなくても身についていきます。実際、教室に通う子どもたちの様子を見ていると、年中の子の多くが休み時間に絵本を声を出して読んでいます。拾い読みでなく、すらすら読んでいる姿を見ると、上記のような問題が出されても何ら問題はないと思います。ただ問題は、こうした文字の読みや数字の読みが出てくると、準備する側がよりエスカレートして、文章を読ませたり、聞いたお話を書かせたり、また数字を読む発展として、数字を使った計算練習が行われる可能性が出てきます。準備する側はより一歩先を見据えて準備しますから、「これをやらないと合格できない」と言われ、小学生の国語や算数をやらないと合格できないという誤った風潮ができやすくなってきているということです。中学校受験を中心に指導していた塾が、なにも知識がなく指導経験もない小学校入試に参入してくると、入試の実態に沿わないそうした準備教育をやりかねないということです。そうした流れになっていくと、準備教育が子どもに与える負担がさらに大きくなり、20年以上前に経験した、問題を出す側と準備する側の「いたちごっこ」で準備教育がエスカレートし、その結果不適応を起こす子どもが増え、再び臨床心理の方々から警告を発せられる結果になりかねません。

文字を読ませたり、数字を読ませたりする学校が出てきた以上、私立小学校の入試担当者が集まって「文字の読み書き」「数字の読み書き」について出題するのがふさわしいかどうかを議論し、入試問題として子どもに課す問題について「ガイドライン」を作る時期に来ているのではないかと思います。受験準備も大事な幼児教育であると考えてきた我々現場の人間は、「文字の読み書き」や「計算力」が入試で問われるようになったら、受験準備がどこまでエスカレートするのか憂慮しています。「考える力」が求められる良い問題が出されている今の入試の現状を破壊する動きにつながらないことを願っています。

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