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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

幼稚園教育の改訂こそ急務

第140号 2008/02/22(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 文部科学省は2月15日、主要教科を中心に授業時間数と指導内容を増加し「ゆとり教育」を見直した新学習指導要領を公表しました。小学校算数では、2けたと3けたの掛算や、アールなどの面積の単位、円柱、角柱の体積などが復活しています。「ゆとり教育」が批判を浴び、国際的な学力調査でも学力低下が明らかになり、学力向上の方針を明確に打ち出したということになります。改訂案では、あらゆる学習の基礎となる「言語力」の育成に力を入れようとしています。

私には、こうした制度的な改革で日本の子どもたちの学力が向上するとは到底思えません。なぜなら、具体的な教室の場におりた議論が何もなされないままに、形だけの改革で済ませようとしているからです。たとえば、「ゆとり教育」の何がいけなかったのでしょう。現場の先生方の賛同を得て導入したのでしょうか。私の知る限り、現場の先生方が何をどう指導したら良いのかわからないまま導入に踏み切ったと聞いています。最初から破綻するとわかっていたはずです。ですから、廃止をするなら、導入する時点での議論までさかのぼって反省すべきです。教える内容を削って、「ゆとり教育」だと言ってきた安易な考え方が問題だったのです。ゆとり教育とは、学力の向上なくして実現できるはずはありません。押しつけられた教科学習ではなく、自ら進んで教科学習に取り組めるような、楽しく・魅力ある授業が少なくなってきている点を現場教師がしっかり反省しなければ、改革は始まりません。楽しい授業を演出する努力をしなかったら、学習への興味関心は薄れます。その結果、考える授業から、教え込まれる授業へと変わってしまっていることが、最大の問題なのです。子どもの学力の向上は制度的な改革ではなく、教室の現場、すなわち授業の質が変わらなければ、実現できません。

読み書き計算の徹底が、学力向上のためと、何の疑いもなく繰り返している以上、論理的思考力が育つはずはありません。計算が早く正確にできるような方法はたくさん編み出されているのに、文章題において立式がきちんとできるような論理教育がなされていない現状を、どこかで変革しなければいけません。現場の教師が、立ち上がらなければ、この現状を誰が変革するのでしょうか。

この指導要領の改訂案発表と同時に幼稚園教育要領案も告示され、1ヵ月間、一般から意見を募集したあと、3月末に告示されることになるようです。毎回感じる事ですが、どうして幼稚園の教育要領案は、あいまいな言い方しかできないのでしょうか。たとえば、数の教育に関する内容では「日常生活の中で、数量や図形などに関心を持つ」と表現されていますが、今子どもたちの学力が危ないといわれている時、昔から相も変わらず「・・・に関心を持つ」だけでは、幼稚園の教育が改善されるはずはありません。もっと具体的に学習目標を示すことが必要なのに、それができないということはどういうことでしょう。幼児教育に関する学者は大勢いても、具体的な指導内容が提案できる幼児教育の専門家がいないということでしょうか。何をどう教えたらいいのかがわかる専門家が、こうした大事な方針を出す会合に参加していないのではないかと疑ってみたくもなります。
なぜ幼小一貫教育のプログラムが具体的に提案されないのか。6歳の4月から急に教科学習が始まるわけですが、スタートの時点で既に相当の学力差がついているという事実を重く受け止めるべきです。

幼小一貫の必要性については第3章で次のように述べています。

(9)幼稚園においては、幼稚園教育が小学校以降の生活や学習の基盤の育成につながることに配慮し、幼児期のふさわしい生活を通して、創造的な思考や、主体的な生活態度などの基礎を養うようにすること。
また、特に留意する事項の(5)において、幼稚園教育と小学校教育との円滑な接続のため、幼児と児童の交流の機会を設けたり、教師の意見交換や合同の研究会の機会を設けたりすることなど、連携を図るようにすること。

このように重要性の認識はあるようですが、こんなあいまいな姿勢では、幼稚園の教育現場は何をどうしたらよいのか判断がつきません。

日本の子どもたちの学力をしっかりさせるためには,教科学習が始まる前の幼児期の教育を充実させ、さらに幼小一貫教育の考え方で学習内容を統一しなければ、いかに上の学年の教育を充実させても、子どもたちの学力は改善することはないと思います。

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