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週刊こぐま通信
「知育を軽視する日本の幼児教育が危ない」

幼児の空間認識をどう育てるか KUNOメソッドの実践(6)

第42号 2015/6/16(Tue)
こぐま会代表  久野 泰可
 幼児期の基礎教育の中で、図形教育の基礎となる「空間認識をどう育てるか」は大変重要です。私たちは、この課題を「位置表象」として領域を定め、身近な経験を学習内容として取り上げてきました。生活空間における「上下」・「前後」・「左右」の3つの関係を基礎とし、その組み合わせを実現することによって、現実を表象する手立てをしっかり身につけるようにしてきました。その中で、未測量と同じように、「位置の相対化」や「位置の系列化」を学習してきました。

先ほどのべた3つの位置関係の中では、「左右関係の理解」が重要です。視点を変えることによって、左右関係そのものが変化するという関係づけが理解できるかどうかがポイントです。向き合った友だちの右手 - 左手が自分とは逆になるという関係を理解するまでには、多少の時間が必要です。「視点を変える」という大事な思考法が求められているからです。上下と左右が関係する「方眼を使った課題」や、前後と左右が関係する「四方からの観察」、また「地図上の移動」などは、小学校の低学年でもやってほしい大事な学習内容です。見る人の立場に自分を立たせたり、動く人の立場に自分を置き換えたりする発想そのものが、「表象」の大事な練習になるからです。

ではどのように授業を組み立てるか。多くの研究者の方から注目された、「四方観察」の授業の内容は、すでに第33号で紹介しましたが、再度要点だけをここに掲載します。

位置表象4 「四方からの観察(1)」
ひとつのものを異なる場所から見ると、見え方が変わることを経験する。それぞれの場所からの見え方を、その場に行かずに推理できるようにする。

1. ヤカンの写生
a. ヤカンの四方を囲んで座り、自分の座っている場所から見えたとおりに写生する。
b. 写生したヤカンの絵を並べて、それぞれがどの方向から見たものかを考え、話し合う。

2. 場所さがし
a. カードを4枚渡される。指示されたカードが、ヤカンをどの方向から見た絵かを考え、その場所に座る。
b. 教師の座った場所からヤカンがどのように見えるかを考え、4枚のカードの中から正しいものを選ぶ。
c. 反対側から見たらどのように見えるかを考え、4つの絵の中から正しいものを選ぶ。
例)くまのぬいぐるみ / じょうろ / 花びんと花

3. ペーパートレーニング

このカリキュラムは年長の4月に扱う内容ですが、その前に、左右関係の理解に関する以下のような授業を行っています。

位置表象2 「左右関係、上下 - 左右関係」
右手・左手の理解をとおして左右関係を身につける。左右を方向の理解に発展させ、交差点の曲がり方を学習する。生活空間に存在する事物の位置関係を、言葉で表現する。左右の理解を踏まえた方眼上の位置関係を学ぶ。

1. 右手・左手
a. 自分の右手・左手を覚える。
b. お友だちと向き合って、指示された方の手を挙げる。相手がどちらの手を挙げているかを見る。
c. 向き合ったお友だちの右手(左手)に、お手玉をのせる。
2. 右の方・左の方
床に色テープを貼ってつくった道路の上を歩き、指示どおりに交差点を進む。
3. 生活空間での位置関係
机や椅子の上、周囲などに具体物が置かれている。「~はどこにありますか」という質問に答える。
(「~の上」「~の下」「~の前」「~の後」「~の右」「~の左」「~の中」「~と~の間」)

4. 方眼上の位置
5×5方眼上の指示された場所につみ木を置く。
「下から~番目全部につみ木をおいてください」
「右から~番目全部につみ木をおいてください」

自分とは異なる他者の視点に立って、ものの見え方を理解する「四方からの観察」は、左右関係の学習の中で、自分以外の右左を理解する課題を前提にしています。自分から見る右左と、向き合った友だちから見る右左が逆の関係になるということの理解ができてから、四方からの観察の課題に繋げていかなければいけません。その意味で、向き合った友だちの右手・左手に指示通りにお手玉を渡す課題が、とても重要だということがわかります。 そして、一つのものを四方から見る見方が身についた段階で、次のステップに進みます。

位置表象5 「四方からの観察(2)」
反対側から見た時の2つのものの位置関係を推理し、またその見え方を実際に描き表すことができるようにする。

1. 二者のものの関係
机の上に球体と四角柱が置かれている。4方向から見るとそれがどのように見えるかを考え、4枚のカードの中から正しいものを選ぶ。


2. 反対から見たらどう見えるか(配置)
色の違う2つの箱(赤と青)を向かい合わせのところから見るとどう見えるか、色つみ木を配置する。

3. 反対から見たらどう見えるか(写生)
机の上に形に特徴のあるものが置かれている。向かい合わせのところから見るとそれがどのように見えるかを考え、画用紙に描く。
a. ペン立てに入ったえんぴつ
b. 花の入った花びんとカップ

4. ペーパートレーニング

最初のヤカンの写生から数えて約1カ月半後、今度は、一つのものの見え方だけではなく、二者・三者の見え方を学びます。その際、方法論として、正しいものを選ぶだけでなく、自分で実際に描き表すことを通して、理解がどこまで深まったかを点検します。幼児期の基礎教育は、こうした「学びの系統性」をしっかりとしたカリキュラムに表現していかないといけません。それは同時に、子どもの「考える力」がどう身についていくかの道筋を明らかにするということでもあります。教師の専門性が問われる大事なカリキュラムづくりでもあるのです。

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