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週刊こぐま通信
「知育を軽視する日本の幼児教育が危ない」

幼児教育から小学校低学年の教育法を見直す

第35号 2015/2/24(Tue)
こぐま会代表  久野 泰可
 これまでの教科学習は、小学校1年生がスタートであり、皆同じスタートラインに立っているから、幼児期には何も意図的な教育は必要ないという前提で始まっています。しかし、同じスタートラインは幻想であり、みなばらばらな発達をして入学してきます。ですから最初から抽象的な学習をしても、わかる子とわからない子に分かれてしまうのは当然と言えます。ばらばらな発達をしてきた子どもたちを同じスタートラインに乗せるためには、1年生の最初の指導はとても大事です。しかし現実は、「小1プロブレム」と言われるように、そもそも教育の営みが非常に困難な状況にある場合が多いと言われています。授業に集中できないことを、一人一人の子どものせいにしたり、家庭の責任に転嫁していくような風潮にありますが、まず何よりも、「つまらない授業」を「楽しい授業」「ワクワクする授業」に変えていく努力をしていかなければなりません。

幼児期における基礎教育の位置づけをしっかり確立するために、私たちは、私たちのメソッドによる基礎教育を卒業した子どもたちが、その後何をどう学んで成長していくのか、気にかけないわけにはいきません。新入学の子どもたちから、「学校のお勉強があまり楽しくない」という声を聞くと、事物を使って学習していた年長児の授業との比較があるのかなと思わざるを得ません。学習意欲をかきたてる授業になっていないとするならば、まずそれを解決する方法を考えなくてはなりません。現場が「教科書とノートと黒板があればOK」という発想を変えない限り、低学年の、特に1年生の「楽しい授業」の演出は難しいでしょう。こんな想いで、「小学校学習指導要領」の算数 第1学年を見ると、目標のところに次のようなことが書かれています。

(1) 具体物を用いた活動などを通して,数についての感覚を豊かにする。数の意味や表し方について理解できるようにするとともに,加法及び減法の意味について理解し,それらの計算の仕方を考え,用いることができるようにする。
(2) 具体物を用いた活動などを通して,量とその測定についての理解の基礎となる経験を重ね,量の大きさについての感覚を豊かにする。
(3) 具体物を用いた活動などを通して,図形についての理解の基礎となる経験を重ね,図形についての感覚を豊かにする。
(4) 具体物を用いた活動などを通して,数量やその関係を言葉,数,式,図などに表したり読み取ったりすることができるようにする。
(小学校学習指導要領 第2章 各教科 第3節 算数より)

とても良いことが書かれています。幼児教育を担当する者にとって、この通りの実践が行われているならば、安心して子どもたちを送り出すことはできます。しかし、ここに描かれているように、すべての課題に関し「具体物を用いた活動等を通して・・・」の部分が本当に実行されているのかどうか、はなはだ疑問です。この具体物を用いた活動こそが、子どもたちにとって楽しい授業の入口になるはずですが、どうもその具体的内容が見えてきません。

例えば東京書籍発行の「新編 あたらしいさんすう 1下」では、図形に関して、「かたちあそび」や「かたちづくり」といった単元が設けられていますが、そこで使用される素材は、箱や色板・棒といったもので、幼児期の子どもたちが好んで取り組む、粘土・折り紙・つみ木・パズルといったような素材には言及されておりません。また、学習指導要領の1年算数における図形のところを見ても以下のような表現しかありません。

(1) 身の回りにあるものの形についての観察や構成などの活動を通して,図形についての理解の基礎となる経験を豊かにする。
ア ものの形を認めたり,形の特徴をとらえたりすること。
イ 前後,左右,上下など方向や位置に関する言葉を正しく用いて,ものの位置を言い表すこと。

将来の図形学習の第1歩として設定されているはずの単元が、あまりにも貧弱に思うのは私だけでしょうか。学習内容や方法が子どもたちの遊びや活動との連携が何もないところをみると、「幼児教育から小学校低学年の教育方法を見直す」と叫ばざるを得ません。子どもの成長に則して、下から上への積み上げが必要です。そうした観点からみると、生活の中で数的な経験をたくさんしているのに、四則演算の習得を3年間もかけて行うという発想は、やはり一度疑ってみる必要はあると思います。私は自分の指導経験から、四則演算の考え方は、1年半あれば十分学習可能であると考えています。現実の生活と抽象的な数の世界をつなぐ意味では、それくらいの期間に学習し、難易度の高い計算は、ゆっくり時間をかけて行えばよいと思います。現実の生活における人の行為を通して算数的思考を可能にするのに、3年も待たないとできないという今のプログラムを、考え直す必要はあるかもしれません。


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