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週刊こぐま通信
「知育を軽視する日本の幼児教育が危ない」

何を学習課題にするか KUNOメソッドの実践(3) 数

第34号 2015/2/10(Tue)
こぐま会代表  久野 泰可
 日本では、昔から学力の基礎は「読み・書き・計算」だと言われてきました。ですから、幼児期の学習課題として「数」は一番わかりやすい領域と言えます。しかし多くの場合、小学校の内容がそうであるように、数字の指導や、数字を使った計算から学習が始まります。だからこそ、数=計算力となり、計算が早くできることが数に強い子ということになっています。しかし、その後どうなるのでしょうか。計算が早くできることだけでは、のちに学習する応用問題(文章題)ができることを保証しません。計算ができても、文章題になるとお手上げという現象が小学校高学年から顕在化します。ここが一番の問題なのです。計算は出来不出来の結果がわかりやすいし、数学習の基礎技能であることは間違いありません。しかし、そのことと我々が数の教育で目標とする「数学的思考」を育てることとは同じではありません。計算ができるだけでは、数学的思考は身に付かないということを、もっと多くの人たちが認識しなければだめです。具体的な生活場面と断絶した形の現在の数教育の在り方を変えない限り、日本の子どもたちの算数の応用力は向上しません。親や教師の中にも、「算数イコール計算力」と思っている人たちが大勢いるから厄介なのです。韓国で算数の教科書編纂に携わっている大学の先生とお話ししたことがあります。韓国でも日本と同じように「算数嫌い」をどう解決するか、相当悩んでいるようです。そこで出た結論は、教科書のつくり方そのものを変革し、「STORY TELLING」の形式に改編したようです。つまり、生活に密着したテーマを扱い、すぐに抽象の世界に子どもたちを引き入れて学習させるのではなく、身近な生活場面の中で、数的側面を取りだして学習をさせるというものです。こぐま会の授業内容がそのようになっていることを大変評価してくださいました。

日本でも同じことが言えます。小学校1年生の算数の教科書を見ていただければ、一目瞭然です。生活における数の変化をとらえさせることではなく、いかに早く数字の世界に子どもたちを引き入れるかで必死です。数字の指導から入るなんて、最もナンセンスなことを学習の最初からやっていて、いかに早く 2+3=5, 5-3=2の世界に連れ込もうかと必死なのです。抽象的な数字の世界に引き込んだら、あとは延々と続く計算練習が待ち構えています。それが小学校3年生まで続くというのですから、算数嫌いが出てくるのは当然と言えます。算数はもっと生活に身近であるし、楽しいはずなのに、数字の世界に引き込まれ、そこでのみ数の操作をしているから味気なくなってしまうのです。数字の世界と現実がうまくつながっていけば良いのに、ますます離れ、数字の世界でのやりとりが長く続くために、計算はできるけれど・・・となっていくのです。

こうした考えを幼児期の教育に持ち込まれたら、たまったものではありません。しかし残念なことに、多くのテキストがそうであるように、「いかに早く数字の世界に子どもたちを引きこむか」だけが関心事となり、肝心な現実世界における数の変化をとらえて考えさせるような教育になっていないのです。私たちが「教科前基礎教育」と言っているのは、そうした小学校の教科書で学ぶ同じ方法で幼児期の学習をしてはならない、もっと言えば、教科学習の基礎をどう育てるかに集中しなければいけないと思っています。では、どのように考えて学習内容を組み立てればよいのでしょうか。我々は幼児の数の学習を考える際に、以下のような原則を守って日々の学習内容を工夫しています。

1. 生活や遊びの中にテーマを求める
2. 小学校で学ぶ内容を易しく薄めて下ろすことはしない
3. +, -, ×, ÷といった数式に使う記号は使わない
4. 指を使った計算はさせない。数をイメージ化できるように暗算トレーニングを強化する
5. 計算だけを取り出した練習は極力避け、どんな場合でも具体的生活場面に即した数の変化を捉えさせる

こうした原則を踏まえ、学習する内容は、教科学習の基礎として次のような単元を設けています。

1. 集合数の基礎としての「分類」課題
2. 分類計数
3. 数の構成
4. 一対一対応
5. 数の増減
6. 一対多対応
7. 数の等分
8. 包含除
9. 数のやりとり
10. 交換

先ほども述べたように、できる限り生活場面を再現させ、そこにおける数的変化や関係づけの中から、数学的思考を育ててきました。その限りにおいて、たし算・ひき算の基礎だけでなく、かけ算・わり算の基礎まで学ぶことは可能です。1年生でたし算・ひき算、2年生でかけ算、3年生でわり算を学ぶという現在のプログラムは、抽象化された数の世界における指導の順序性であり、生活の中から数的側面を取りだして学ぼうという考え方に立てば、幼児期から四則演算の基礎すべてが学習可能です。数的思考を育てるという観点に立てば、わり算が終わるまで3年間を費やすという今のプログラムは、あまりにも長すぎます。
では、こぐま会における数の学習の一例として、かけ算の考え方につながる「一対多対応」の学習内容をここに紹介します。具体から抽象への流れと、ペーパーワークにつながる事物経験がどのように組み立てられているかをぜひ読み取ってください。この学習は、入学前の就学準備クラスにおいて扱う「かけ算の考え方」の授業につながっていきます。

数5 「一対多対応」
かけ算の基礎となる1あたり量の考え方、かけ算の逆となる包含除(わり算)の考え方を身につける。

1. お客さんごっこ
a. 5人のお客さんに、コップを1個ずつ、キャラメルを2個ずつ、折り紙を3枚ずつ配るのに必要な数を考え、用意する。
b. お客さんに配り終えた時点で、あまったり足りなかったりした場合、その数を言う。
2. 車づくり
タイヤのついていない車両の絵カード(3種類)が見せられる。それぞれの車両(3~5台)を作るには、全部で何個のタイヤが必要かを考える。台数を変えていろいろ行う。
a. 5台の自転車
b. 4台の三輪車
c. 3台の自動車
3. 袋づくり
a. 3つの袋に3本ずつ鉛筆を入れるには、全部で何本の鉛筆が必要かを考える。
b. 12本の鉛筆を3本ずつ袋に入れるには、袋がいくつ必要かを考える。(包含除の考え方)
c. 全部の鉛筆の数と1袋に入れる鉛筆の数を変えて、いろいろ行う。

4. ペーパートレーニング



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