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週刊こぐま通信
「知育を軽視する日本の幼児教育が危ない」

発想豊かな図形教育を

第28号 2014/11/4(Tue)
こぐま会代表  久野 泰可
 私たちが教室で指導する教科前基礎教育の内容は、将来の算数・国語につながっていくものが中心で多岐にわたっていますが、その中でも子どもたちにとって一番興味があるのは、図形の学習のようです。子どもたちが日常的に「図形遊び」を好んでいるからでしょうか。例えば、幼児にとって昔も今も人気のある遊びと言えば、粘土遊びであり、折り紙・つみ木・ピクチャーパズル等、図形的な要素を持った遊びです。勉強という感覚ではなく、楽しい遊びとして子どもたちが日々取り組んでいるものです。そうした経験を取り込みながら、小学校における図形教育の基礎を学ばせようと、私たちは次のような視点で1年間の学習内容を準備しています。

(1) 平面図形の理解
(2) 立体図形の理解
(3) 図形構成(平面・立体)
(4) 図形分割
(5) 対称図形
(6) 重ね図形
(7) 回転図形

こうした意図を持ちながらも、実際は、パズル・折り紙・つみ木・粘土等を使った楽しい学習に仕上げています。量の学習、空間の理解、数の操作、聞く・話す・・・と課題はたくさんありますが、その中でも、こうした図形的な学習が子どもたちにとって人気があるのは、ものごとに触れ、試行錯誤ができるというように、素材そのものに「可逆性」があるからなのかもしれません。

しかし、こうした楽しいはずの図形教育が、小学校に入ると全く楽しくない学習になってしまうのです。なぜでしょう。それは、教育方法に問題があるからです。ここに、小学校学習指導要領の算数科における、低学年の図形教育の内容を抜粋してみました。

1年生
(1)身の回りにあるものの形についての観察や構成などの活動を通して,図形についての理解の基礎となる経験を豊かにする。
ア ものの形を認めたり,形の特徴をとらえたりすること。
イ 前後,左右,上下など方向や位置に関する言葉を正しく用いて,ものの位置を言い表すこと。

2年生
(1)ものの形についての観察や構成などの活動を通して,図形を構成する要素に着目し,図形について理解できるようにする。
ア 三角形,四角形について知ること。
イ 正方形,長方形,直角三角形について知ること。
ウ 箱の形をしたものについて知ること。

3年生
(1)図形についての観察や構成などの活動を通して,図形を構成する要素に着目し,図形について理解できるようにする。
ア 二等辺三角形,正三角形について知ること。
イ 角について知ること。
ウ 円,球について知ること。また,それらの中心,半径,直径について知ること。

どうでしょう。私が良く言う「貧弱な図形教育」という意味がお分かりいただけましたでしょうか。学習指導要領独特の言い回しである「観察や構成などの活動を通して,図形を構成する要素に着目し図形について理解できるようにする」と漠然と言っておいて、後は、三角形・正方形・長方形・直角三角形・二等辺三角形・正三角形等の図形の特徴について知ることが、低学年の図形教育の目標になっているのです。結果としてそれぞれの図形の特徴に着目できればよいわけですが、「図形について理解できるようにする」ためにどんな活動が好ましいか、一切述べていません。だから、あれだけ幼児期に楽しんだ図形遊びが、小学校に入るとペーパー中心の学習になってしまい、図形の特徴を丸暗記するだけになってしまうため、子どもたちにとっては楽しくない授業になってしまうのです。どうして、幼児期に楽しく取り組んだ素材を使って、豊かな図形教育ができないのでしょうか。現場の先生方がいろいろ工夫して、折り紙や粘土を使った教育を試みようとしているはずですが、私の知る限りまだまだ少ないようです。

こうした現実を考えると、幼児期のうちに、「空間認識」「図形教育」に力を入れることが、とても大事になってきます。「つみ木を使った図形教育」、「折り紙を使った図形教育」、「粘土を使った図形教育」、「パズルを使った図形教育」等ができれば、こんなに楽しい図形教育はありません。小学校に上がったら、「教科書とノート」があれば教育は可能という暗黙の了解を一度疑ってみるとよいかもしれません。幼児期から積み上げていく具体物を使った「図形教育」が入学後も続けば、上級生になってから図形嫌いになる子をもっと減らせるかもしれません。知識の教え込みではなく、事物に働きかけ、構成したり、分割したりする中で図形的なセンスを磨くことが、将来の難しい図形学習の基礎をつくるためにはぜひとも必要なことだと思います。

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