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週刊こぐま通信
「知育を軽視する日本の幼児教育が危ない」

幼児の発達に見合った指導法を

第16号 2014/5/27(Tue)
こぐま会代表  久野 泰可
 幼児期の子どもたちを対象とした意図的な教育活動がそもそも成立するのかどうか、疑問を持っている方が多いのも事実ですし、幼稚園や保育園の現場の先生の中にも、30名1クラスで一体どんな授業ができるのか、疑問や不安を持っている方が多いのも事実です。これまでの日本の幼児教育においては、小学校で行われている授業のように、年間指導計画に基づいた授業の経験が蓄積されてこなかったことも、否定的な意見に影響しているかもしれません。しかし、他国の幼稚園を見ると、正しい知育が集団による授業形式で行われていて、「遊び保育」「自由保育」などの概念そのものが成り立たないと感じざるを得ません。これからの日本の幼児教育は、これまでの「知育嫌い」の考え方を乗り越えて、「教科学習の基礎をどうつくるのか」という大きな課題に挑戦していかなければなりません。日本らしいこれまでのきめ細かな保育の良さを生かし、日本の風土にあった新しい発想の幼児教育が生み出せると確信しています。

私が実践してきた指導法は、昔からある教育方法に関する議論を踏まえ、「生活単元学習」的手法を核に、思考発達における幼児期の特徴を生かしながら、「教科の系統性」を重んじた学習方法です。具体から抽象への橋渡しをどうするかを最大の課題としながら、ものごとへの働きかけを重視する指導法です。「KUNOメソッド」の中核となる三段階教授法は、過去の遺産に学び、子どものいる現場で検証し、試行錯誤の実践を積み重ねてきた結果生み出されたものです。すなわち、

 1. 体を使った活動
 2. 事物に働きかけ、試行錯誤する経験を重視する事物教育
 3. 具体から抽象への橋渡しとしてのペーパーワーク

現場指導を通して編み出したこの方法こそ、幼児教育に新しい風を吹き込む授業方法論だと確信しています。しかも我々のように、教室空間で完結させなければならない場合と違って、園での共同生活では「体を使った活動」は日常的に経験の共有ができるわけですから、自由保育的な活動と意図的な学習活動とがうまくかみ合えば、園での楽しい生活が学習活動の基盤になっていくという好ましい連動が達成できるわけです。生活単元学習的な活動を系統学習に結び付けていくことができれば、幼児期の最大の課題である「具体から抽象へ」の橋渡しは実現でき、「イメージ化」や「内面化」といわれる大切な学習プロセスを保証できるのです。その結果、遊びの効用を大事にした自由保育を支持する人たちと、そもそも何も知らない幼児には「読み書き計算」を教え込めば良いと考える「注入教育」を支持する人たちの両方を説得することができるでしょう。

体を使った活動経験を、手を使った働きかけを重視する事物教育につなげ、最後にワークブックで認識を定着させていく方法は、幼児がものごとを理解していく道筋に合致した方法だと考えています。幼児期にペーパーワークを課すことなど、「受験対策」以外にはあり得ないと考えてきた人たちが大勢いると思いますが、最後の締めくくりとして、小学校で言えば「教科書」的な役割を担うワークブックは、幼児期の子どもたちにとっても必要です。私は以前から、幼児向けの教科書があってしかるべきだと主張してきましたが、そろそろ実現すべき時が来たと考えています。誰も試みなかったこの仕事は、私一人の力で実現できるほど簡単なことではありません。それぞれの学問の専門家を結集して、「教科前基礎教育」にふさわしい教科書づくりが実現されることを強く望んでいます。

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