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週刊こぐま通信
「知育を軽視する日本の幼児教育が危ない」

幼小のつなぎを意識した学習プログラムを

第6号 2014/2/14(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可
 平成24年1月24日に、ノルウェー・オスロで行われた「ノルウェー/OECD就学前教育・保育ハイレベル円卓会議」では、質の高い小学校就学前教育・保育の政策実行に向けた議論が、世界34カ国から合計198名が参加して行われました。「質の高い就学前教育・保育への投資が経済的及び社会的に重要である」ということに焦点を当て、各国の取り組みが報告され、議論が行われました。その中で注目すべきことは、就学前教育・保育に関する投資効果について、「幼児教育・保育への投資は、社会全体にもたらす経済的効果が最も高い」としたことです。ノーベル経済学賞受賞者である、ジェームズ・ヘックマンによる研究成果などが紹介され、「幼児期のスキル形成はその後の人的資本形成の基礎をつくる。学びは更なる学びへとつながる。幼児期への投資は重要である」としたことが強調されています。そうした観点でみた時、日本の5歳児に対する1人当たりの幼児教育・保育の支出(平均所得に対する割合)は、OECD平均を大きく下回り、33カ国中下位から2番目であることも報告されています。

日本政府はこの会議で、「総合子ども園」の創設に向けた取り組みなどを報告しています。また韓国からは、所得に関わらず5歳児の幼児教育は義務制ではないものの無償化にしていることなども報告されています。こうした環境整備に対する投資以外に、「小学校への入学準備や円滑な入学のためのプログラム」(アメリカ)に対する投資や、「幼児教育・保育内容を企画する職員(プログラムスタッフ)と指導監督的職員(スーパーバイザー)の制度」(カナダ)を創設したり、「幼児教育担当教員の基礎資格を修士レベルとした」(アイスランド)ことなど、教育内容の質を向上させるために投資する国の例も報告されています。

こうしたソフト面への投資こそ「学びが更なる学び」を促すことになるわけですが、日本の場合は、教育内容・保育内容への投資が少ないように思います。箱さえつくればよいのではなく、そこで行われる教育の質の向上を目指さなければなりません。知育を軽視してきた日本の幼児教育が、こうした世界の流れに後れをとっている現実を、もっと多くの人が知らなければなりません。通信教育の参加数に象徴されるように、子どもを持つ親は、自分の子どもが小学校に入学してからもちゃんとやっていけるかどうかが不安で取り組んでいるはずです。公の幼稚園や保育園がそうした親の教育要求をしっかり受け止め、小学校で行われる教科学習へのつなぎを意識したプログラムをつくることがどうしても必要です。

「知的学習は小学校からで良いから、幼児期は思う存分遊ばせれば良い」という考え方から早く卒業しないと、日本の子どもたちの学力は世界に通用しなくなります。小学校受験のない、中国や韓国・東南アジア諸国等で、なぜ幼児教育に熱い視線を送るのでしょうか。私の講演会になぜ大勢の保護者が参加し、多くの質問を寄せるのでしょうか。「学歴社会だから」ということだけでなく、幼児教育への投資が、「学びがさらなる学びを促す」ことを保護者レベルでしっかりとわかっているからなのでしょう。それは、日本のように良い学校に入る、良い会社に入るだけでなく、世界の動きに目を向け、どのように社会貢献するかという視点を、子育ての中でちゃんと持っているということにほかなりません。学力の基礎づくりのためにどんなプログラムが必要かを実践的に明らかにしないと、日本の幼児教育はますます危ない状況に陥っていくことでしょう。学者・研究者の提言を、早く現場で実践し、一人一人の子どもたちに「考える力」がどのように定着したかを現場で検証していくようなシステムをつくらないと、「理論があっても実践なし」という、これまでと変わらない状況が続いていくことになります。現場の実践を大事にする雰囲気をつくっていかないと、幼児教育の改革は進まないと思います。

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