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週刊こぐま通信
「行動観察だより」

課題画 - 想像力が豊かな子ども -

第11回 2013/2/22(Fri)
こぐま会 廣瀬 亜利子
 今週は、話をまず読み聞かせて、その話に基づいて指定されたことについて絵に描き表すという「課題画」がテーマでした。

「ねこのブルーノ」という私が創作した10編による短編集の中から「ブルーノのたんじょうび」という1編を読み聞かせました :

主人公のまゆちゃんの6歳のお誕生日に、新しく家族として仲間入りした1歳になったばかりの子猫の話で、その猫にブルーノという名前をつけたこと、ブルーノが当初、猫のお母さんを探して家の中を歩いていた様子、まゆちゃんが学校に行っている間一人でお留守番している様子などが綴られています。ブルーノは、まゆちゃんの家に来て初めて迎えた2歳の誕生日を、大好物の鶏肉でできたケーキにロウソクを2本立てて祝ってもらいました。すっかり新しい家族との生活にも慣れてきました。時が経つのは早いもので、もうじきブルーノは3歳の誕生日を迎えます。まゆちゃんは2歳のときとは何か違うプレゼントをあげたり、ブルーノが喜びそうなことを何かしてあげたいと考えています。「ブルーノに何をプレゼントしようかなぁ」「何をしてあげるとブルーノが喜んでくれるかなぁ」

ここでこのお話は終わります。
「もしもみんながまゆちゃんだったら、ブルーノに何をプレゼントしたいと思いますか?何をしてあげたいと思いますか?何かいい考えはないかしら?まゆちゃんのためにみんなもいっしょに考えてくれるかしら?プレゼントしたいものでもいいし、何かしてあげているところでもいいし、思いついたことなら何でもいいからそれを絵に描いてくださいね。」

「は~い!」と張り切った明るい声から「.....」まで、反応はさまざまでした。
「もう描いていい?」と一人の子どもが聞いてきたので、「どうぞ、描き始めてください。」
とスタートの合図を出しました。そしてホワイトボードに6個(1個2分)を描いて皆に伝えました。「このまん丸お月様が全部消えてしまうまでいっしょうけんめい描いてね!」
「お月さま6個?ウェ~!!」

多くの子どもがすぐに描き始めました。その子たちは6個のが消えるまで時間をしっかり使って夢中になって描いていました。しかし一方、描き出すまでに少々時間がかかった子どももいました。中でも2~3人の子どもは、2個目のお月様が消えてもまだ描き始めることができず、「わからないよ~。何描けばいいかわからないよ~。」と悩んでいたので、私はその子たち一人ひとりに尋ねてみました :

「猫って食べるもの何が好きだと思う?ちゃんのそばにブルーノが来たら何してあげる?何をしてあげたらブルーノ喜ぶかな?」
「...さかな?」
「そうね、猫はおさかな大好きよね。 じゃあ、何して遊んであげたい?」
「...おもちゃであそぶ。」
「どんなおもちゃ?」
「クマのお人形」「ネズミのお人形」「まり」
「ほら!いい考えいっぱい浮かんだじゃない! ブルーノはきっとすごく喜ぶと思うわよ。今言ったのを描けばいいのよ。」

何を描けばよいのかわからずにずっと悩んでいた子たちも、ようやく描き始めることができました。いったん描き始めることができたあとは全く何事もなかったかのように、むしろ楽しんで描いていました。

課題画は今回で2回目となります。1回目は冬休み明けに行い、「冬休みに楽しかったこと」を描いてもらいました。しかし、休み明けから2週間ぐらいは経っていて皆すでに忘れてしまっているかもしれないと思い、描く前に、まず子どもたち一人ひとりと冬休みについて会話して思い出を呼び戻しました。子どもが何について描こうかということを明確にして、それから描くよう計らいました。題材自体は、実際に子どもが経験したことでしたので、思い出すことさえできれば、描くことはとてもスムーズで、皆とても楽しんで描いている姿がとても印象的でした。それに対して今回は、描き表す内容がその子の実生活とは全く関係なく、空想の世界であるという点が、「描ける」「描けない」を大きく分けたようでした。「描ける」に属していた子どもでも、その中のほとんどの子は、想像力を働かせて作り上げたオリジナリティというよりは、その子が持っている最大限の「一般常識」を活かしてそれを絵に反映しているという感じでした。つまり、「猫と言えば魚」という既成概念の中で描いている子がほとんどでした。ところが若干名ではありますが、この年齢にして非常に想像力が豊かな子もいました。自分自身を主人公のまゆちゃんに置き換えて、お話の中に入りこんで、ブルーノのためにいろいろ考えてあげるということが、何の違和感もなくごく自然にできて、それを思い通りに描くことができるというすばらしい才能に恵まれた子がいるのだという事実を目の当たりにして、感心する以上に驚きました :

「何をしてあげることにしたの?このネコちゃんはお友だち?」
「ママに頼んでブルーノのお兄ちゃんと弟を呼んできてもらう。」
「それはすごい考えね!ブルーノすごく喜ぶわね!」
「うん!そしてお友だちも呼んでみんなでパーティするの。プレゼントはネコのお人形とジャングルジム。」
「ネコのお人形はどうして?」
「ブルーノの兄弟が帰ってしまってもネコのお人形がいたらさみしくないから。」
ちゃん優しいのね。ネコのお人形がいたらブルーノさみしくないよね。
 それで、これはおさかな?」
「そう、おさかなはまゆちゃんのママが焼くの。まゆちゃんはケーキを作るの。」
「あ、これケーキね?ちゃんとロウソクも3本立っているね。
 これは何?」
「飾りつけだよ。星とお花とダイヤの飾り付け。」
「じゃあこれがジャングルジム?」
「そう。ジャングルジム作ってあげるの。のぼるの楽しいから。」
「楽しそうね~。ブルーノ最高に喜ぶわね!」

「まゆちゃん」になりきったちゃんはキラキラ目を輝かせながら、夢中になって絵の説明をしてくれました。

この子どもは普段とても静かな口数の少ない子どもです。いつもニコニコしてお友だちの輪の中にはしっかり入っていますが決して皆をリードしたり自己主張するタイプではなく、どちらかというと「お先にどうぞ」と人に譲って自分は最後というような子どもです。一方、私との会話はとても自然体で子どもらしく、思ったことをはっきり表現してくれます。それにしても、この子がこれほどまでに想像力が豊かで、しかもそれをことばと絵の両方でしっかり表現できるとは、正直、予想をはるかに超えていて驚きました。子どもが内に秘めているキラリと光る貴石を見つけ出したような思いでした。
たとえ空想の世界と言えども、子ども自身の経験や知識がベースとなっていることは言うまでもありません。その子の日常生活というと、話を聞いていてうらやましくなるほど楽しそうなのです。家族でいろいろなところに出かけて行っては季節を感じたり、野山を走り回ったりはもちろんのこと、動物の世話からお母さまのお手伝いまで、その子の日常生活は本当に充実しています。そして、それだけではなく、その子はお母さまとの「読み聞かせ」の時間を1日の中で一番楽しみにしているそうです。大好きなひとつのお話を、来る日も来る日も聞き続けているうちに、とうとう1冊まるごと暗唱できるほどになってしまったというエピソードもうかがいました。

その年齢にふさわしい幼児らしい生活を送り、いろいろな集団活動を経験し、季節、動物、音楽、あらゆる経験を積み重ねることで、子どもはいつの間にか、「人との関わり方」から「ネコが好む食べ物」まで幅広くいろいろな事柄を吸収していくのです。そして、さらには実生活で経験しきれないより広い世界があることを、絵本を通して知るのです。経験豊かな子と想像力豊かな子はイコールだと思います。学習面においても、想像力豊かな子どもであればあるほど理解がより早いように思います。一見無関係なようなペーパー問題の設問さえも、実は想像力と大いに関係あると思います。想像力豊かな子どもであれば、耳から聞こえてきたことばを頭の中で容易に映像化できるからです。
入試において求められるのは、想像力豊かなやわらかい頭の子どもです。そのような子どもに育てるためにも、いつも同じことの繰り返しになりますが、一般的な幼児らしい日常生活を送り、いろいろなものを、自分の目で見させて手で触れさせて、いろいろな活動を経験をさせるよう積極的に心がけてください。そして「読み聞かせ」も同じくらいに大事です。ときには絵を見せず純粋に耳から読み聞かせることもとても効果的ですので、ぜひ取り入れてみてください。

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