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週刊こぐま通信
「行動観察だより」

自由あそび

第4回 2012/12/14(Fri)
こぐま会 廣瀬 亜利子
 行動観察クラスの子どもたちと出会って早くも1カ月がたちました。今日は冬休み前の最後のクラス。風邪を引いてお休みの子を一人除いて、皆とても元気な顔を見せてくれました。そう言えば...よくよく考えてみるとまだ今日で4回目でした。どの子とも、もうすっかり打ち解けているので、まるでもっとずっと前から知っていたような感じがします。

今日のテーマは「自由あそび」でした。つみ木、おままごと、ボーリング、輪投げなどのコーナーが教室のあちこちに設けられていて、好きなところに行って自由に遊ぶ、というものです。

小学校入試における行動観察の出題にも流行のようなものがあるようで、7~8年前から数年間、女子校を中心に、「行動観察といえば自由あそび」という時代が確かにありました。その後、この2~3年の間にそれらの女子校の傾向がまた変わってきて、最近は「指示を聞いて理解する力」「人の話を聞く力」を問われる比重が以前に比べて大きくなってきたように思います。しかしそれだけでは十分ではなく、「お友だちとのかかわり方」についても見ることができるよう、「グループで何かを作って遊ぶ」形式に変わってきたのでしょう。去年も今年も、女子校、共学校を問わず、この形式が主流でした。一方、今まで行動観察に対してあまり重きを置いていなかったような学校で、今年ふたを開けたら「自由あそび」だった、というケースもありました。

「人とのかかわり方」とひと言で言っても、いろいろな要素があります。先週行った共同制作では「チームワーク」がキーワードでした。今日行った自由あそびは、それとはまた違う要素を持っています。そこにいる子どもたちが「何かを作る」というような明確な目的意識を持って関わり合っているのではなく、「素」の子ども - ごく自然な関わり合い - 偶然その場に居合わせた子ども間の関わり合いであるという点が、共同制作とは異なります。そしてもっと大きく異なる点は、自由あそびにおいては、大人の力が一切加わらないということです。教室全体が、100%子どもだけの世界なのです。裏返せば、試験の当日、子どもたちが喧嘩をはじめようが何をしようがそこにいる先生は決して何も言わず、注意もしてくれず、ただ黙って見ているだけ、ということです。実際、喧嘩はよく起こっているようです。

私の行動観察クラスでは4回に1回は自由あそびを行うことにしています。試験に出るからではありません。子どもが遊んでいる様子を観察していると、ちょっとした表情から、ご家庭の様子や子どもの精神状態を読み取ることができるからです。ご家庭でどのように学習しているかまで見えてきます。子どものほんのちょっとした表情や目の動きにサインとして表れるのです。「サイン」を感じ取ってお母さまにお話を伺ってみると、やはり何かあることがほとんどです。また、長い間継続して見てきた子であればあるほどちょっとした変化もわかりやすいのです。ある日いつもと様子が違うことに気づき、保護者の方に確かめてみると、やはり何か問題を抱えている場合が多いです。しかし、観察していて悪いことばかり気になるわけではありません。今までお友だちに譲れなかった子がある日突然譲れた!おままごとで一言もことばを発することができなかったのに、今日はじめてことばを発した!ボーリングを常に独占していた子が、ピンをお友だちのために並べてあげた!など、よい場面もたくさん見てきました。むしろ良いことのほうがずっと多かったです。私に課せられた使命は、一人ひとりの良いところをできるだけ早くたくさん見つけ出すことです。そして、どんなに小さいことでも何か良いところを見つけたら、その瞬間を決して見逃してはいけない、といつも自分に言い聞かせています。ほとんどの子どもが何かしら問題点を抱えていますが、同時に良いところもたくさん持っています。その子の良さをまず認め、褒めてあげ、子どもとの信頼関係を築き上げることが私自身の当面の課題です。

今日の遊具はつみ木、輪投げ、ボーリングでした。始まると、皆、サッとそれぞれのコーナーに散らばっていきました。ボーリングも輪投げも、一応順番を守って投げることができていました。つみ木コーナでも6~7人の子どもたちが和気あいあいと遊んでいました。少なくとも遊んでいるかのように見えました。しばらくして、もう一度見ると、2人、2人、1人、1人というグループに分かれて、それぞれ別々に何かを作っていました。2人組の子たちは会話を交わしていましたが、1人で作っていた子は、それぞれ黙々と夢中になって何かを作っていました。先週の共同制作とは違った光景でしたが、子どもたち自身は皆楽しそうでした。
しばらく様子を見ていると、2人組で遊んでいたAちゃんが、単独で立派なタワーのようなものを作っていた子に向かって、「だめだよ!そんなに使わないでよ!こっちのが足りなくて作れないじゃない!」と強い口調で言いました。すると、言われた子は、しばらく「嫌だ」と抵抗していましたが、そのうち無言でタワーを崩し、2つ、3つと自分が使ったつみ木を渡し始めました。「ありがとう...」と思わずAちゃん。特に何もコメントせず黙って見守っていましたが、いつの間にか意気投合したようで、結局、最終的にはAちゃんの2人組に単独だった子も加わって3人で仲良くおうち作りをしていました。どこにも入ることができなかったBちゃんも、だんだんニコニコ顔に変わり、それから少しずつつみ木グループの方にやって来て、この子も結局3人組に加わり、無言ながらも明らかに楽しんでいる様子でした。ボーリングコーナーでは並び順をめぐって喧嘩が始まりましたが、そのうち何となく解決できたようでした。

そのときの偶然の組み合わせによって何が起こるか予想もできない自由あそび。大いに喧嘩して、言い合いをして、お互い揉まれ合いながら少しずつお友だちとの関わり方を学んでいくことでしょう。良いことも悪いこともたくさん経験してほしいです。次回また、何が起こるか楽しみです。

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